Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

吉福康郎『武術「奥義」の科学 : 最強の身体技法』講談社(ブルーバックス)

武術にある数々の奥義(師範が弟子たちを触るだけで投げ飛ばす,みたいなやつ)がヤラセではなく,そこにはしっかりとした科学的(力学的,バイオメカニクス的)な根拠がある,というのがよくわかった。自分で実際に「経験」してみたいなぁとは思うんだけど…。

こういう本を読むときに,自分のやっているスポーツ(たとえばゴルフ)に応用できないかなという邪な気持ちを持ちながら読むんだけど,

合理的な動きといっても,スポーツと武術では意味合いが異なる。スポーツでは一般に強い力やパワー,大きな速度を重要視する。…したがって,パワーを最大にする効率的な力の使い方も重要になる。武術でもこれらの要素が必要なことに変わりはないが,その裏をかいて相手に力を出させなくしたり,動きを相手に察知されないような身体操作を重んじ,時にはスポーツでは考えられないようなすばやい動作を実現する。

っていうことで,安易な応用はできないのかなと思っちゃう。相手あっての武術だし,ルールがなく生死がかかっているのが武術だし。

しかし,

オーバーハンドサーブ中にラケットを振るパワーには,回転パワー並進パワーの二種類がある。回転パワーはいわゆる手首のひねりによるパワーで,動員される前腕の筋肉が少ないためパワーが少ない。並進パワーはラケットを握る手そのものの移動によるパワーで,下肢を主体とする全身の筋群が動員され,大きなパワーである。

っていうのを見ると,ゴルフにおいてはやっぱりアームローテーションによる追加のパワーなんてきっとものすごく小さいんだろうということが想像できる。

中国拳法では発勁(はっけい)という独特の力の出し方をするが,陳式太極拳ではその一つである纏絲勁 (てんしけい)を重要視する。これは,体の各部をらせん状にねじることで爆発的な力を生み出す,とされている。人体の大きな筋肉にねじり,つまり回旋の作用のあることと大いに関係がある,と思われる。

うーん,ピート・コーエンのスパイラル打法もこれか?(適当)

下肢や体幹のように大筋肉群によって動く関節は,大きな関節トルクとパワーを発揮できる。それによる大きな力やパワーを伝える経路となる上肢のように小さな関節は,関節間力だけが発生するような角度に調整するべきである。伝えるべき力が小さくなった段階で,補助的な力とパワーを出してもよい。

このへん,「関節トルク(筋収縮による回転力」と「関節間力(骨組みを伝わる力)」というのは,もっと深堀りして学ぶ価値がありそう。

武術家はそれらを巧みに使い分けている。筋力の弱い部分では関節間力を使い,逆に筋力の強い部分では関節トルクを用いると,体全体として最大の力を出せる。たとえば,正面から向かってくる相手を押し返すとき,比較的筋力の小さい腕は伸ばして関節間力を発揮させ,筋力の強い下肢の屈伸する力(関節トルク)を使うと効果的だ。

こういうのって普通の人間も直感的に用いている動作なのかもしれないけど,意識していけば体の運用がだいぶ変わっていきそう。

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