例の豪華客船のコロナの件で一躍名を知られるようになった岩田先生。彼のブログでこの本の存在を知った。
「やはり教科書は大事」という岩田先生のひとことに尽きるんだけど,とはいえ「この教科書は,学部上級もしくは大学院初年度における1学期分(15週間)の運動生理学の講義で使用されることを想定している」ので,通読するのはそう簡単じゃない。
一応この記事に最後に簡略目次を掲載するけど,見て分かる通り,めっちゃ教科書。特に3つあるセクションのうち最初のはミクロの話というか生物学の話というか……。
拾い読み
通読なんてできないから,パラパラとめくって面白そうなところをメモってるだけなんだけど,それでもかなり面白い。例えば,
- 風邪をひいたときの運動について
- 症状が鼻水,鼻づまり,喉の軽い痛みに限定さえれている場合は,運動しても構わない。
- 症状が首よりも下の部位にある場合(胸が詰まった感じ,咳,胃痛など)は,運動するのは懸命ではない。また,発熱,全身の倦怠感,広範囲にわたる筋肉痛がある場合は,運動をしてはならない。
- 運動中の暑熱障害は予防することができる
- 1日のうち最も涼しい時間帯に運動する。
- 高温多湿の日には運動の強度と持続時間を最小限にする。
- なるべく広範囲の皮膚を露出する(衣服を脱ぐ)。
- 練習ではこまめな水分補給を許可する。
- 休憩中は直射日光による放射熱の獲得を避け,冷風に吹かれるようにする。
- トレーニングについて
- 過負荷の原理とは,組織や臓器系に対するトレーニグ効果を得るためには,日頃慣れていない強度や時間,頻度で運動を行わなければならないということを示している。
- 特異性の原理とは,トレーニング効果は活動に関与した筋線維に限定されるということを意味している。
- 成人が身体活動による健康上の利益を得るためには,週あたり150~300分間の中強度の身体活動,もしくは週あたり75~150分間の高強度の身体活動,または2つを組み合わせたものを実施するべきである。
- 定期的な運動トレーニングに心筋保護機能があることは今では十分に確立されている。
- 冷涼な環境で厚手の衣服を着てトレーニングすることで,暑熱順化を促進することは可能。
- 食事とダイエット
- 米国人は飽和脂肪酸を摂りすぎており,総エネルギー摂取量の10%を超えないように摂取量を減らすことが推奨されている。トランス脂肪酸の摂取量も可能なかぎり減らすべきである。
- 健康を維持するための体脂肪率の適正範囲は,若年男性で8~22%,若年女性で20~35%である。
- エネルギー損失量が同じであれば,運動と食事制限による減量効果は同等である。しかしながら,体力向上効果は運動によってのみ得られる。
- 体重の増加を予防するには,中強度の身体活動を週あたり150~250分間行うことが推奨される。
- 体重を大きく減らし,減量後もその体重を維持するためには,中強度の身体活動を週あたり250分間行うことが推奨される。
- カフェインは筋骨格や中枢神経系,また金活動のためのエネルギー源の動員に影響を与えることでパフォーマンスを向上させる可能性がある。
- カフェインによるパフォーマンス向上効果には個人差がある。効果は摂取量に依存し,また習慣的なカフェイン摂取者への効果は少ない。
- パフォーマンスとトレーニング
- 10秒未満の種目では,最適なパフォーマンスは,必要とされる大きな力を発揮するために適したII型線維の動員に依存している。その力を発揮するためには,スキルだけではなくモチベーションや覚醒が必要である。
- トレーニングによくある間違いは,(1) オーバートレーニング,(2) 競技種目に合わない運動の実施,(3) 目標に合った長期的なトレーニング計画立案の失敗,(4) 大会前のテーパリングの失敗である。
- テーパリングとは大会前にトレーニング負荷を短期的に減らすことをいう。パワー系競技でも持久系競技でも,大会前のテーパリングはパフォーマンスを向上させるために有用であることが研究で示されている。
- 短距離走のようなパワー系アスリートには有酸素トレーニングが必要ないということを意味しているわけではない。それどころか,有酸素運動はシーズン前の腱や靭帯の強化のためにすべてのアスリートに対して推奨される。
- ストレッチについて
- ストレッチによる柔軟性の向上は運動による傷害のリスクを減らすと以前から信じられてきた。しかし現在のところ,ストレッチが運動やさまざまなスポーツ中の怪我を減らすということを支持する報告はほとんどない。
- 柔軟性が向上しても運動による傷害のリスクが軽減されるわけではないとしても,あらゆる可動域で関節を動かす能力はスポーツで重要である。実際,柔軟性が失われると動きの効率が低下する可能性がある。
- ストレッチには静的ストレッチと動的ストレッチがある。いずれの方法も柔軟性を向上させるが,静的ストレッチの方が動的ストレッチよりも優れていると考えられる。なぜならば,(1) 障害の可能性がより低く,(2) 筋紡錘を刺激することがより少なく,(3) 筋損傷を引き起こす可能性がより低いからである。
- 柔軟性向上プログラムの開始時にはストレッチ姿勢を10秒間保持するようにし,数回のトレーニング後には保持する時間を60秒間まで伸ばすことがすすめられる。
- 最近の研究では,競技前に静的ストレッチ(特に45秒以上)を実施すると最大筋力や瞬発性パフォーマンスが低下するため,避けたほうがよいとされている。
- その他
- このタイプの筋肉痛(運動から24~48時間後に発生する痛み)は骨格筋繊維の微細な損傷に起因していることが,多くの研究結果によって示唆されている。(俗に言われる乳酸のせいではない)
- 筋線維タイプは運動パフォーマンスにおいて重要な役割を果たすことが知られているが,同じスポーツで競い好成績をおさめたアスリートどうしでさえも,筋線維組成にはかなりの違いがある。
ってな感じで,ゴルフに直接関係があるとすれば,まずストレッチ,そしてトレーニング。あと「覚醒」ね。そういう意味ではデシャンボーが正しいと思うんだけど,特にティーショットで飛ばしたいときには,自らを覚醒させた方がいいんだと思う…。
あとゴルフと関係ないけど,面白かったのが「暑熱順化」。数年前で甲子園を沸かせた秋田の金足農業,「暑さ対策」って言って夏でも暑いジャンパー着て練習してて,「マジかよ効果あるのかよ殺す気かよ」とか思ってたんだけど,どうやら効果あるみたいだ。
簡略目次
Section 1|運動生理学の基礎
- 第0章 運動生理学の世界へようこそ
- 第1章 運動生理学で行われる一般的な測定
- 第2章 内部循環の制御
- 第3章 生体エネルギーの反応
- 第4章 運動時の代謝
- 第5章 細胞シグナル伝達と運動に対するホルモン応答
- 第6章 運動と免疫系
- 第7章 神経系の向上と運動の制御
- 第8章 骨格筋:構造と機能
- 第9章 運動時の循環応答
- 第10章 運動器の換気応答
- 第11章 運動時の酸塩基平衡
- 第12章 体温調節
- 第13章 トレーニングの生理学:最大酸素摂取量,パフォーマンス,筋力への効果
Section 2|フィットネス 健康・体力向上のための運動生理学
- 第14章 慢性疾患の予防:身体活動と健康的な食習慣
- 第15章 心肺機能評価のための運動負荷テスト
- 第16章 健康と体力改善のための運動処方
- 第17章 特別な配慮を要する集団に対する運動処方
- 第18章 健康のための栄養と身体組成
Section 3|パフォーマンス 競技力向上のための運動生理学
- 第19章 パフォーマンスに影響を及ぼす要因
- 第20章 パフォーマンスの実験室評価
- 第21章 パフォーマンス向上のためのトレーニング
- 第22章 女性アスリート,子ども,特定の疾患をもつアスリート,中高年アスリートのためのトレーニング
- 第23章 栄養および身体組成とパフォーマンス
- 第24章 運動と環境
- 第25章 エルゴジェニックエイド
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