Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

田島宏 編, 恒川邦夫 著『コレクション・フランス語 5 読む』白水社

ベストセラーにもロングセラーにもなるような本ではないと思うけど,試みとしては凄く面白い。〈読む〉と言われて〈英文読解〉とか〈英文和訳〉みたいなのを思い浮かべ,「それって〈文法〉と何が違うの?」と思った自分を華麗に裏切る。

この本に出てくる〈読む〉は--名文を読むというのも出てくるが--街中にある看板やメトロへの乗り方やコインランドリーにある注意書きやレストランでのメニューや肉屋でも買い物といった,生活/文化/暮らしに出てくる文字を〈読む〉こと。

それをあえて〈訳す〉と言わず〈読む〉と表することの意味を著者は,こう述べている:

《読む》ということは,要するに,何がいいたいのかを理解することである。国や言葉が違えば,その背景にある文化や生活習慣も違う。《訳す》ということはそうした違いの全体を視野におさめた上で一種の《接点・妥協点》を探る作業である。そうした作業は文学テクストなどにはふさわしいが,日常生活の実用的な言語メッセージの理解には必ずしも要求されない。それよりも結局はどういうことを伝えているのか,具体的に何をしなければならないのかを《理解》することのほうが肝要である。「要するにこういうことだ」と自分の言葉で言い換えることができること,《読む》とはそういうことである。文学テクストを《訳す》場合にも基本的に何を言おうとしているのかを大枠で把握するそうした《読む》力が不可欠である。《訳す》という言葉によって柔軟な言葉の置き換えての運動が阻害されないよう,あえて《読む》と《訳す》を区別したゆえんである。

コレクション・フランス語 5(読む) 改訂版 | NDLサーチ | 国立国会図書館

850.7