Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

小倉貞男『物語ヴェトナムの歴史:一億人国家のダイナミズム』中央公論社(中公新書)

以前読んだ小倉紀蔵『朝鮮思想全史』ちくま新書のあとがきに

わたしの亡き父がかつてヴェトナムの歴史に関する新書を書いたとき,できあがった本があまりにも(非常識なほど)分厚いので,「新書でこんな分厚い本を書いてどうするんだ」とわたしは思い,そのことを父にいった。父の答えは,「ヴェトナムはすごいんだよ,ヴェトナム人はすごいんだよ」のひとことであった。

というくだりがあって,そうかと思って読んでみたのがこの本です。

たしかに,すごい。ダイナミックで狡猾なヴェトナムとその人々。中公新書のこの「物語」シリーズはいくつもありますが,ここまで「物語」という言葉を意識して書かれたものも,そうそうないのではないでしょうか。

それにしても,自分がヴェトナムについてほとんど何も知らなかったことを,ことごとく思い知らされました。

「ヴィエトナム」(VIET NAM)という国名は,ヴェトナム自身がつけたものではない。はじめてヴェトナムを統一した王朝に対して,中国の清朝が名付けさせたものである。このときヴェトナムは自ら国名をつけることができなかった。「ヴェトナム」は漢字で「越南」と書く。(P.2)

という冒頭の一節から,引き込まれる。本当は国号を「ナムヴィエット(南越)」にしたかったけれど,それでは秦朝末期の混乱期に,中国南部に秦朝に対して反逆した政権(国号を「南越」と名乗った)を思い出させるので清朝としては面白くない,そしてヴェトナム側もそれを意識してあえて「南越」と名乗ろうとした,という話が続いて,ここにヴェトナムと中国との関係性,そしてヴェトナム人のメンタリティを見るような気がして,とてもおもしろかったのでした。