なんでこうもダサい上にズレてる邦題にするんだろうな,と思う。『The Art of Learning: An Inner Journey to Optimal Performance』だよ,原題。「チェス」と「武術」を入れたい気持ちはわかる。特に「チェス」。ジョッシュ・ウェイツキンって聞いてピンとくる人は少ないだろうし。でも,「情熱」じゃないだろ。ジョッシュは「Art(技法)」だって言ってるの。
僕は太極拳やチェスにたけているわけではないのだ――僕が得意なのは学ぶこと,そう,習得の技法なのだということを。この本は,僕の方法論の物語なのだ。
もちろんその学びを下支えするのは情熱なんだけど,それがこの本の主題じゃない。
それにしても,自分が何のために本を読んでいるかというと,こういう本に出会うためだという気がしている。普通に生きていたら決して出会うことのない偉人たちの言葉に触れること。彼らの人生や思考を追体験すること。唯一無二の体験なのに,普遍的な意味を持つという素晴らしさ。
本当のハイレベルになると技術的には大差がなくなり,勝敗を決めるのは心理的なものになってくるという。ジョッシュの経験・省察も,「プレッシャーのかかる局面でいかに集中力を保ち,猛攻を受けながらも平静さを保っていられるか」というところが中心になっていると思う。チェスも武術も相手と対面して戦うものだし,そこは共通するんだろうな(一方でそれを他のスポーツ,例えばどうゴルフに応用すればいいのかについては,各人が考えていくしかないのかも)。
それにしても,人との出会いだわ。ジョッシュが太極拳を学んだのは,「太極拳の達人として世界的に有名」なウィリアム・C・C・チェンだし,最初にチェスのコーチになったのは,「1972年のボビー・フィッシャー対ボリス・スパスキーの歴史的な世界チェス選手権でテレビ解説をしていた」ブルース・パンドルフィーニだし,あるいはLGE(今ではヒューマン・パフォーマンス・インスティテュートと名称変更されている)という超一流のパフォーマンス・トレーニング・センターで出会ったインストラクター,あるいはそこに通う他のスポーツのトップアスリートたちだったり,
キーワード
技術的な向上,それを前に進めるための自分の心理面の認識,現実の認識,「今」への集中,ナーバスになった神経を利用,「完全ではないことを受け入れる心の準備が必要」,「太極拳の偉大な修行者というものは,特定の基本原理の技術をものすごく高いレベルまで練り上げることに身を捧げた武術家」,「複雑性を排除した局面を研究することで確固たる基礎的土台を作ることが大切,その原理が自分のものとして身体にしみついたら,今度は複雑な状況へと適用させてゆく」,「ミクロを通してマクロを理解する」
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