Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

村尾隆介『ミズノ本:世界で愛される“日本的企業”の秘密』ワニブックス

とにもかくにも,ミズノ本に『ミズノ本』って名前をつけちゃう芸のなさね。

文中に何度も「僕が」が出てくるんだけど,だったら最初にこの著者が何者なのかを記すべきだと思う(「中小企業にもブランディング戦略」を日本に根づかせたブランディングの第一人者,らしい)。その「僕」がミズノとべったりというかミズノが好きすぎて,対象との距離がうまく取れてないから緊張感のない文章になっているし,さらにそういう「僕」の視点を通して書かれているからこそ,いまのミズノのランダムなスナップショットという感の散漫な構成になっていて,ミズノという会社のストーリーやスピリットがうまく伝わってこないんだな。例えば「ミズノが“まち”をマルっとプロデュース」っていう話も目新しくはあるんだけど,それでスポーツブランドとしてのミズノの価値が高まる? ミズノのシューズとかウェアとか買いたくなると思う? こういうネタの選択もうまくいっていないように見える。「僕」のミズノへの偏愛ゆえに。

本書の中で二度ほど,「ミズノってダサいというイメージを持たれているだろうけど,それは性能を追求した機能美だと僕は思う」というようなことが出てくるんだけど,現社長は

「派手さがないんですよね。地味なんです。だから,うちの会社の製品は,性能がよくてもデザイン的になかなか十分でないとか,マーケティング的に下手だとか,何かそこにあんまりお金がいってないとかね(笑)。

って認めちゃってる。良くも悪くも社長は引いてるのに,「僕」だけが前ののめりになってるというかね。

まぁ話としては面白いのがちょいちょい出てきて,例えば創業者は「水野」なのに「将来,店が発展したとき,子孫以外の人間に立派な才能を持った人ができることも考えて」ということで「美津濃」にした(出身が美濃の大垣だということにもちなんでいるが)とか,「ゴルフクラブは使っていくうちに反発係数の規定を普通は超えるもので,ミズノの場合はそうなっても規定を超えないようにつくるから,ミズノのドライバーは飛ばないし契約プロに使ってもらえないと社長は考えている」とか,「ワイシャツのことを西日本ではカッターシャツというけれど,それもミズノが浸透させた言葉」だとか,「夏春とも高校野球大会はミズノが始めたものだった」とか,「Jリーグ発足時の10チームのユニフォームはミズノがそのデザインを一手に引き受けた」とか,「野球ボールのバウンド検査(4.12mの高さから床に置いた大理石に自然落下させて,1.40~1.45mバウンドすれば合格)は,当時のミズノ本社の2階の窓の高さがだいたい4.12mぐらいで,身長1.50mの利八さんの目線がだいたい1.40mぐらいだったから」とかとか。

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