Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

サイモン・シン, エツァート・エルンスト『代替医療のトリック』新潮社

原タイトルは『Trick or treatment?』。単行本刊行時の邦題は『代替医療のトリック』で,3年後の文庫収録時に『代替医療解剖』と改題された。国会図書館サーチで「代替医療のトリック」と検索すると反論めいた記事がいくつか出されたことが分かる。

『代替医療のトリック』っていうタイトルはちょっと刺激的だったのかなーと思いつつ,原題の持つ(ハロウィンのフレーズにちなんだ)軽い感じが消えているし,かつ,著者たちは前提として曇りのない/科学的な視点から代替医療を評価しようとしている(からこそ「or」なんだけど)のにも関わらず,『代替医療のトリック』だともう結果を決めつけちゃっている感があるので,そういう意味でもちょっと不適切かな…。(じゃあどうすんだって話だけど,『だいたい代替医療とは』ぐらいしか思いつかない)

題名のことはこれぐらいにして,本書の結論だけを知りたければうしろの方にまとめられていて,つまり

本書ではこれまで,何百篇もの科学論文の結果にもとづいて,四つの主要な代替医療――鍼,ホメオパシー,カイロプラクティック,ハーブ療法――を吟味してきた。鍼については,痛みや吐き気には効果があるかもしれないという程度の科学的根拠は得られているが,それ以外の症状について医療上の効果は認められず,治療法の基礎となる概念は科学的に理解できないことがわかった。ホメオパシーについては,科学的根拠の示すところによれば,夢物語にすぎず,患者に売りつけるまやかしの業界であるようだ。それに対してカイロプラクティックは,腰痛については理学療法と同等の効果がありそうだが,それ以外の症状について言われているような効果はありそうになく,深刻なリスクもあるようだ。ハーブ療法については,この分野でいくつか興味深い薬が得られたことに疑問の余地はないが,それを大きく上まわる数のハーブの有効性が証明されていないか,あるいは有効性が否定されているか,さらには確実に危険性が判明しているにもかかわらず市場に出回っている。

ということなんだけど,当然この本としてはこれらに代表される代替医療をディスりたかったわけではないし,《科学的根拠にもとづく医療(Evidence-Based Medicine)》という考え方や,それにまつわる歴史(瀉血とかナイチンゲールとか)も深く知ることができるのである。

あと著者たちは,「Natural」「Traditional」「Wholistic」というワードが出てきたら注意しろと言ってる。これはそうかもね。

これを読むと,多くの代替医療はプラセボ効果以上のメリットはないし,それを上回るほどのデメリットや危険性があるものもあることが分かる。「プラセボでも効果があるならいいじゃないか」って反論は著者たちももちろん承知で,それに対しては「効果があったと思い込んで,それで通常の(本当に効果がある)医療を受けないことにつながる可能性がある。それはデメリットだ」ということを言ってる。ですよねー。

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代替医療のトリック (新潮社): 2010|書誌詳細|国立国会図書館サーチ