Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

櫛部静二『基礎からわかる!中長距離走トレーニング:運動生理学に基づく新たなトレーニングがレベルアップをもたらす』ベースボール・マガジン社

いやぁもう,『確実に速くなるランニングの科学』なんて子供騙しに思えるほど,本格的で包括的で実践的。

城西大学男子駅伝部監督による本で,「本書は,陸上競技の中長距離種目に取り組む高校生や大学生,あるいはその指導者に利用してほしいと考えています」(でも「市民ランナーにも,本書を活用していただきたいと思います」と著者が記すように,上記の本のような懇切丁寧な解説(特にランニングフォームについて)の解説はない。そのへんはできてるでしょっていう前提のもとに,実際に競技会で結果を出すためにどういうトレーニングをすればよくて,そのためにどういうコンディショニングをすべきで,そもそもどんなトレーニングをどんな理屈のもとにすればいいか,ということが記されている。

「第1章 ランナーの生理学」では,エネルギーの発生が「ATP(アデノシン三リン酸)が分解されてADP(アデノシン二リン酸)がになるときに発生する」としたうえで,そのエネルギー供給システムが「ATP-PCr系」「解糖系」「有酸素系」の3種類あるということが,丁寧に解説されいてる。この3つのエネルギー供給系の話は,本書を通してずっと続くし,これが中長距離走の本質であることがわかる。

また,「長距離ランナーの能力を決める3つの要因」ということで,「最大酸素摂取量」「乳酸性作業閾値」「ランニングエコノミー」が紹介される。「ランニングエコノミー」とは「速度に対して消費する酸素量のこと」で,これを高めるためには「筋力トレーニングやプライおメトリクストレーニングにより筋繊維を向上させてフォームを改善していくこと」がポイントだと書かれているが,上記の通り,フォームについての指導は本書内では最小限に抑えられている。

本書ではトレーニングには7つの原則があるとしており,つまり「全面性(必要となるすべての能力をバランスよく鍛える)」「個別性(個人個人の条件をに合ったトレーニングの量や強度を考慮する)」「意識性(何を目的にどの機能を鍛えているのかを意識する)」「特異性(トレーニングを行ったとき,体の働かせた部位に対してのみ,その効果が得られる)」「漸進性(能力の向上に合わせて少しずつ負荷を高めていく必要がある)」「継続性(効果を得るためには,あるトレーニングを継続させていくことが必要)」「収穫逓減性(トレーニングを長く続けていくと効果の伸び率は次第に低下していく)」。

最後に余談として,世界レベルの大会における種目別(800m,1500m,5000m,10000m)のラスト1周のラップタイムを見ると,数秒の差しかないことがわかる。このことから著者は,長距離走者でもラストは中距離的なスピードが必要であるとしており,それを意識した筋力トレーニングとランニングエコノミーの改善を主張している。

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基礎からわかる!中長距離走トレーニング : 運動生理学に基づく新たなトレーニングがレベルアップをもたらす (ベースボール・マガジン社): 2015|書誌詳細|国立国会図書館サーチ