Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

NHKメルトダウン取材班『福島第一原発事故の「真実」』講談社

『失敗の本質』に通ずるものがあると思うけど,あちらはなんとなく「昔の人がやったこと」と切り離して考えがちで,こちらは記憶に新しい事象だけに,リアリティーをもって読めるんじゃないだろうか。

タイトルに括弧書きで「真実」とあるように,NHK取材班の気合いが詰まってる。ゆえに,700ページ超。正直言って冗長に感じる部分があるというか,複数の章で記述が重複している部分があると思うし,「とりあえず書けるだけ書いとけ,詰め込めるだけ詰め込んどけ」という感がなきにしもあらずなんだけど(特に村上明子@IBMが行なった,AIによる吉田所長の疲労度の分析の章),まぁそれにしてもよく多方面から事故に迫りましたね,というのは認めざるを得ない。さすが予算が潤沢にある,公共放送としてのNHKである(イタリアにいって事故の一部の再現をしたりとか,アメリカにいってイソコンのテストの話を聞いたりとか)。

僕自身きっとこの本を読むまでは大いに勘違いしていた部分があって,それは「福島のやつは津波で電源が喪失したのが原因で,揺れに関しては問題なかった。だから逆に原発の揺れに対する耐性は証明された」みたいに単純化して考えてたんだけど,実はそうでもないっぽいという。つまり例えば,仮に電源が喪失したとしても作動するはずのイソコン(と本書内では何度も登場する,非常用復水器:IC:アイソレーションコンデンサー)が,そこにいる誰も実際に作動するのが見たことがなくて,動いているのかどうか分からなかったとか,あるいはいろいろとラッキーが重なったので今ぐらいの被害で済んでいる(といっても大変なレベルだけど)けれど,そうじゃなかったらチェルノブイリ級の事故になりえていたとか,津波への対策も「想定外」だったということはなくて,事前に対応できた可能性は多いにあった(けど組織の問題とか,東北の前に起きた刈羽原発の事故に東電が対応せざるをえなかった状況の中で福島にまで頭や予算が回らなかったとか),まぁほんといろいろ。

しかし,決死の覚悟の注水作業が実はほとんど意味がなかったとか,2号機は注水できなかったのが逆に幸いしたとか,皮肉めいた話もいっぱいある。

あと菅直人。ヘリコプターで現地に向かって,奮闘している人たちを激励するでもなく質問攻めにして発破をかけるというか怒り散らしただけという,そこは間違いない。

543.5

福島第一原発事故の「真実」 (講談社): 2021|書誌詳細|国立国会図書館サーチ