Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

キット・イェーツ『生と死を分ける数学:人生の〈ほぼ〉すべてに数学が関係するわけ』草思社

奇をてらったタイトルだけど,中身はよくある感じ。一般的な読者の情感に訴えたいからか,各トピックをある個人のエピソード――たとえばチェルノブイリ原発事故は,発電所のシフト管理者アレクサンドル・アキーモフのエピソード――として語っているが,それがどこまで成功しているかは不明。だってそのあとに続く内容は「よくある感じ」なんだから。

これは,数学者のための本でも学校数学をさらうための本でもなく,数学が自分たちの日々の暮らしとどう関わっているかを知りたい人のための,「日々の暮らしで,往々にして気づかぬうちに,数学の大きな影響を被った人々の物語を集めた本」

と「訳者あとがき」は述べていて,なるほど「物語」にしたかったんだろうけど,そうしなければならなかった必然性も感じない。

第1章の指数関数的増加・減少,第2章の感度と特異度あたりはまだいい。ただ,第5章「小数点や単位がもたらす災難」あたりになってくると,「それって数学の話か?」とイチャモンをつけたくなってくる。

いや,全体的にはよく書けている本だとは思いますよ。でも既視感あるし,そもそも誰がこういう本を読むのか……こういう本を読む人は他のをすでに読んでいるだろうし,こういう本ではじめて数学のありがたさを分かるような人がこの本をそもそも手にするのか――そのための奇をてらったタイトルなんだろうけど。

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生と死を分ける数学 : 人生の〈ほぼ〉すべてに数学が関係するわけ (草思社): 2020|書誌詳細|国立国会図書館サーチ