〈天才〉についての話だけが出てくるわけではないし,〈成功する人々〉の話だけが出てくるわけでもない。そういう意味でこの邦題は徹頭徹尾ずれているけれど,原題も『Outliers: The Story of Success』で,これまたずれている。翻訳の勝間和代が〈解説〉で
この本を読むと,「生まれながらの天才などいない」ということが理解できるが,逆にそうであるからこそ,グラッドウェルがまとめた”天才になる法則”を活用していけば,私たち自身も天才になれるのではないかという期待と,そして未来が見えてくる本でもある。
なんて書かれていて,よくもここまで筋違いなことを書けるもんだなぁと,逆に関心する。厚顔無恥極まれり。だって,この本の主張は著者がまとめているように,
スター弁護士や数学の天才,ソフトウェア業界の起業家は,一見したところ,ありきたりな体験の枠外に位置するように思われる。だが,実際はそうではない。成功者は歴史や社会,好機と遺産の産物である。その成功は,異例のものでも謎に満ちたものでもない。それらは,複雑に編み込まれた,優位性と彼らが受け継いだ遺産から生まれる。しかもその一部は与えられる価値があり,一部は与えられて当然とはいえず,あるいはみずから勝ち取った分もあれば,単なる幸運で手に入れた分もある。だが,そのどれが欠けても成功者は成功者になり得なかった。つまるところ,アウトライアーは最初からアウトライアーだったわけではないのだ。
スポーツで成功する人の多くはアカデミックイヤーの最初の方で生まれているという,割とよく知られている事実。本書の第一章はこれに関するものだけど,これを読んだらどうやって勝間和代のように「私たち自身も天才になれるのではないかという期待」が持てるの? 第二章はいわゆる「一万時間の法則」だけど,勝間和代はゴルフを1万時間練習した? どれだけ上手くなった?
とまぁ勝間和代の話はおいといて。その〈一万時間の法則〉の中で,例として出てくるのがビートルズ。彼ら――特にジョンとポール――には生まれ持った音楽の才能があっただろうけれど,でもビートルズをビートルズたらしめたのは,ハンブルク時代。1日8時間も演奏する日が毎日のように続くなかで,演奏の腕が上がっただけでなく,音楽的なレパートリーも増えたと。
話はビル・ゲイツにも及ぶ。彼も天賦の才能のようなものはあっただろうけれど,それよりも環境と時代が味方したと。つまり,家庭は裕福だったし,それもあって小さいころからプログラミングに没頭できる環境にあった。さらにいえば,ビル・ゲイツだけでなくコンピューター業界で〈先駆者〉となった人たち――スティーブ・ジョブスも含む――は1955年前後に生まれているけれど,それはちょうどパソコンの黎明期に年を取りすぎずしかも若すぎず,つまり人生と思考において柔軟性がありつつもプログラミングの経験をたくさん積めるだけの年齢に達していた,という〈幸運〉があった。
第二部の『「文化」という遺産』は取ってつけたようなものというか,〈天才〉とか〈アウトライアー〉とか〈成功〉というものとは真逆の話。たとえば大韓航空は他と比べて事故率が非常に高いときがあったが,それには韓国人のコミュニケーションにおける民族的特性――身上の言うことは絶対という価値観――が作用していたとか,そういう話。
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