Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

大鹿靖明『金融庁戦記:企業監視官・佐々木清隆の事件簿』講談社

まぁこういうお話は〈痛快〉ですよね。〈金融庁戦記〉っていうメインのタイトルはあとづけで,本質は〈佐々木清隆の事件簿〉。この異色の人物に焦点を当てているのだが,著者があとがきで述べているように,「課長までの下役時代のできごとには自らが深く関与し,記憶もなまなましいが,上級管理職に昇進してからは,どうしても役所の内部調整のような話が多くなってしまい,要はあまりおもしろくならない」ーーーー著者は執筆前に「そうなるだろうな」と危惧していて,果たしてそうなった。

〈事件簿〉以外で本書内で面白いなと思ったのは,〈行政〉や〈行政官〉という言葉に込められた意味合い。たとえば証券取引等監視委員会の委員長に就任した佐渡賢一が佐々木に対して「監視委は行政組織だろう。行政組織ならば,もっと迅速に対応しなくちゃ」と述べたとか,佐々木の検察の知人が佐渡を評して「あの人は,以外に行政センスのある人だよ」と述べたとか,著者いわく「行政官である佐々木は,一つひとつの事件の取り調べを直接したわけではない」と記述したりとか。たぶん自分の中で,パブリックセクターで働く人間を十把一絡げにしているけど,でも中の人にしてみたら実際は司法・行政・立法でそれぞれ役割感も仕事の進め方も考え方も全然違うんだろうな。たぶんだからライブドア事件のときも,いきなり東京地検かどこかが強制捜査というかたちをとってマーケットに大きなショックを与えた(司法的アプローチ)だけど,そうじゃなくて行政指導的なものを小出しにしていった方が良かったのでは,みたいな話になるんだろうな。

368.6

金融庁戦記 : 企業監視官・佐々木清隆の事件簿 (講談社): 2021|書誌詳細|国立国会図書館サーチ