Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

竹村景子『スワヒリ語のしくみ』白水社

『世界の言語入門』で紹介されていた本をさっそく読んでみる。そして,近所の図書館にはこの『〇〇語のしくみ』シリーズが豊富にあったのが,嬉しい誤算。

で,このシリーズ。「その言語がどんな感じなのかとりあえず知りたい」というーー僕のようなーー人間にはぴったり。だいたいの感じがーーといってもほんの表面だけだろうけどーー分かった気になる。mとかnとかから始まる言葉,かっこいい。スワヒリ語もちょっとやってみたくなってきた……。

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1章 文字と発音のしくみ

「アフリカの言語なんだから,きっとヒエログリフみたいな文字を使うんでしょ?」……などと思っている人がいるかも知れませんが,アフリカ大陸のサハラ砂漠より南の地域(「サハラ以南アフリカ」)では,文字が発達したところがほとんどないのです。ヨーロッパ人がやって来る前までは,民族の歴史や昔話など,あらゆることが伝えされてきました。

植民地時代に入る前,キリスト教の布教活動にやって来たヨーロッパの教師たちは,アフリカの現地の言葉の記述にも力を入れましたが,その時に使った文字は当然彼らが日常使っている「ローマ字」だったのです。

Mama yangu mnene anataka kuwa mwembamba kidogo./読み方は大丈夫ですか?[ママヤングムネネアナタカクワムェンバンバ キドゴ]となりますね。意味は「私の太った母は少し細くなりたがっている」です。この文には,スワヒリ語の母音が全て含まれているのです。つまり,a,e,i,o,uだけで,日本語と同じなのです。

ここには2つの注意点があります。まず。日本語の「お」とスワヒリ語の[オ]は厳密に言うと異なるということです。スワヒリ語の[オ]は日本語の「お」に比べて,口の中での舌の位置がより後ろにある時に発音される上,唇の円形が少し広いのです。だから,無意識に日本語の「お」を発音してしまうと,スワヒリ語の[ウ]に遅い音だと判断されてしまいます。もう1つは,その[ウ]が全く違うということです。スワヒリ語の[ウ]は,唇を円くして突き出すようにして発音しますので,語尾に[ウ]が来た時にもはっきりと残って聞こえます。

これが「気息」というもので,スワヒリ語を母語として話す人々は,気息を伴う発音かそうでないかをきちんと区別しますが,綴り上は気息のあるなしは区別しませんし,スワヒリ語が国家語,公用語になっているタンザニアやケニアでも多くの人が発音上も区別しません。

上の文に含まれるb,d,g,jに注目してください。これらの音は,サハラ以南アフリカの諸言語にはよく存在する音です。(…)ごく簡単に言えば,一旦息を口の中に吸い込むようにして,口の外ではなく内側で音を出すようにするわけです。

スワヒリ語は,言うまでもなくアフリカ大陸固有の言語の1つです。アフリカ大陸には,少なく見積もって2000もの言語があると言われていて,これらの言語は通常大きく4つに分類されます。そのうちの1つにニジェール・コンゴ部族という言語グループがあって,それはさらにいくつかの下位グループに分かれます。そのうちの1つであるバントゥ(Bantu) 諸語と呼ばれるグループに,スワヒリ語は属しています。

「スワヒリ」という名称は,アラビア語で「海岸」を表わすsawahil がもとになっているという説が最も有力ですが,このことからもわかるように,アラビア語との関係は非常に深いのです。

2章 書き方と語のしくみ

mwana ムヮナ

これがスワヒリ語で「子ども」を表わす語ですが,これから見ていくように,いろいろなところに出てきます。

mwanahalali ムヮナハラリ 「子ども+合法の」

mwanaharamu ムヮナハらム 「子ども+非合法の」

mshonajiには'm'というカシラと‘ji’という尾っぽがついているのです。このカシラと尾っぽには大きな役割があって,miは「人間1人」を表わし,Jiは動詞を名詞に変える働きをしています。日本語で言えば,‘m’は「料理人」の「人」。 ‘ji’は「動く」を「動き」とする時の「き」と同じだと思えばよいでしょう。shonaは「縫う」という意味なので,それにカシラの‘mi’と尾っぽの‘ji’をくっつけて,「縫う人」を表わしているのです。

3章 文のしくみ

スワヒリ語で最も大切な文法用語は接辞です。本来は接頭辞,接尾辞などと言いますが,本書ではこれまで通りカシラと尾っぽという言い方をしていきます。すでに見たように,カシラは語のアタマにつくもの,尾っぽは語のオシリにつくものです。

「日本語の3大特徴を挙げなさい」と言われたら戸惑うかも知れないのに,スワヒリ語の3大特徴ならすぐに言えます。それは,①名詞のグループ分け,②動詞を使った文,③様々な「カシラ」との「合致」です。これらの特徴は,サハラ以南アフリカの中で最も広範囲に分布している「バントゥ諸語」と呼ばれる言語グループの特徴で,この言語グループに属しているスワヒリ語と「きょうだい関係」にある言語全てに見られるものです。/この3つの特徴は,それぞれが別々に存在しているのではなく,実はものすごく密接に連関しています。

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1章 区別のしくみ

「飾られるもの」が先,「飾るもの」が後という順番に並んでいるわけです。実は,スワヒリ語では,この「飾るもの」と「飾られるもの」の順番が日本語とは決定的に違います。日本語では,「飾るもの」である「大きい」が「飾られるもの」である「マンゴー」の前に付きますが,スワヒリ語では全く逆の順番になるのです。

実は,スワヒリ語の全ての名詞は,いくつかに分けられたグループにそれぞれ所属しているのです。「マンゴー,パパイヤ,耳」と,「椅子,本」は,それぞれ別の「名詞グループ」に所属しています。(…)このように,スワヒリ語の名詞はいくつかのグループに分かれて存在しています。そして,どのグループに所属する名詞なのかによって,その「カシラ」も変わるし,「飾るもの」にくっつく「カシラ」も変わるのです。

2章 人と時間のしくみ

スワヒリ語と,そのきょうだい関係にあるアフリカの多くの言語では,動詞がaで終わるものが多いのです。スワヒリ語の場合は,もともとからスワヒリ語の中にあった動詞の語尾はaですが,たまに次のようなものも出てきます。

これらのようにa以外の母音で終わっている動詞は,アラビア語などの外国語から借りてきた動詞です。

動詞の前に「主語を表わすカシラ」と,「時間を表わすカシラ」をくっつけることによって,「誰が,いつ」その行為をしたのかということを表わすことになっているのです。

前の文の直訳は「私は本とともにある」となります。何でこんなことになってしまうかと言うと,スワヒリ語には「持っている」という動詞がないからなのです。不思議に思う人がいるかも知れませんが,これがスワヒリ語の中の面白い「しくみ」だと言えるでしょう。

スワヒリ語はありがたいことに,ほんの数分後から何万年先の未来まで,この‘ta’という形1つで表わせます。スワヒリ語ときょうだい関係にある言語の中には,今日の午後に起こること,明日起こること,1週間後に起こること...という具合に,今からどれくらい先の話かによってカシラが変わってしまう言語もあるのです。

3章 「てにをは」のしくみ

こうして「主語を表わすカシラ」を使うのが,スワヒリ語の「は」のしくみなのです。つまり,「てにをは」と言っても,スワヒリ語には日本語のように助詞があるわけではないのです。

大変申し訳ないのですが,同じ「それ」でも,元々の名詞が所属するグループによって形が変わるのです。つまり。「区別のしくみ」がここでも現われるということですね。「本」や「椅子」などが所属する「道具のグループ」では’ki’,「マンゴー」や「パイナップル」などが所属する「果物のグループ」では’1i’,「雑多な物や外来語のグループ」では‘i’という形であることを覚えてくださいね。

名詞が属するグループによって「てにをは」の形を考えなければならないスワヒリ語の中で,「で」はいつでも同じkwaなので,ちょっとホッとしますよね。

4章 数のしくみ

スワヒリ話は「1,2,3,半分,たくさん」しか数えられない言語ではありません。ちゃんと日本語と同じように数えることができます。そう,本当に日本語とよく似ているのです。あ,でも。数字を表わす言葉が似ているのではなく,数え方のシステムが似ているというだけなので……。

  • 1 moja
  • 2 mbili
  • 3 tatu
  • 4 nne
  • 5 tano
  • 6 sita
  • 7 saba
  • 8 nane
  • 9 tisa
5章 実際のしくみ

スワヒリ語には大きく分けて 24くらいの方言があると言われていますが,まだ解明されていないこともたくさんあります。標準語との決定的な違いを発見できると,私たち言語学者は大興奮するのです!

参考図書ガイド

初学者が会話練習をするにはもってこいの入門書。

初級レベルから中級レベルまでしっかりマスターできる教本。散りばめられたコラムも読みごたえあり,

スワヒリ語一日本語辞書として,現在最も使いやすい。

しくみがわかったら,是非この本で詳細な文法を学んでみよう。

アフリカでの言語調査の実態とともに,文化や社会経済の情報もわかる一冊。

タンザニア社会の様々な側面を知りたい人にはおすすめの1冊。

ザンジバル島を中心に,スワヒリ世界の成り立ちと文化の特徴を描く。

ザンジバル島で語り継がれている昔話を採話,平易な日本語訳で読みやすい。

スワヒリ語のしくみ 新版 | NDLサーチ | 国立国会図書館

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