Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

黒田龍之助『ロシア語のしくみ』白水社

この本は『ロシア語のしくみ』です。ロシア語は多くの人が「なんとなく難しそうだ」と言じている言語です。でもどこがどう難しいのか,説明できる人はあまりいません。本当はどうなんでしょう?この本を読めば,少なくとも易しいか難しいかが分かってくるはずです。

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1章 文字と発音のしくみ

日本語のイクラはロシア語でも[イクらー]です。иは[イ]の音を表します。英語のNとは何の関係もありません。アクセントが最後のaにあるので,[らー]で舌を巻きながら伸ばします。

ロシア語のикраは魚の卵を全般的に示します。チョウザメの卵,キャビアもикраです。区別するときにはイクラが「赤いикpa」,キャビアが「黒いикpa」となります。語は似ていますが,値段はだいぶ違います。

2章 書き方と語のしくみ
3章 文のしくみ

ロシア部は「話題が比較的自由である」といわれます。しかし「比較的自由」というのは,勝手に並べていいということではありません。ロシア語では語の並べ方に次のような大原則があります。/「いちばんいいたいところは,最後までとっておく」

どの分野にもそれぞれの専門用語がありますが,文法にも独特の用語があって,それが分からないと説明がさっぱり理解できません。だいたい文法が嫌いという人は,実はこの文法用語でつまずいているのです。反対にこの文法用語を身にかけるイヤな奴もいます。

日本話や英語と比べてずいぶん違うロシア語のしくみ。でもその違いは,大きく分けるとたった3つにまとめられます。

①相手によってかたちが変わる。同じ「新しい」と結びつくときでも,「木」につくのと「雑誌」につくのでは,語の最後の部分のかたちが違います。そのためには図別のしくみを理解することが大切です。

②「誰がするか」でかたちが変わる。日本語なら「わたし」でも「あなた」でも「彼女」でも,たとえば「走っている」はいつでも同じです。しかしロシア語では同じ「走っている」でも,誰がするかで語の最後の部分が違ったかたちになります。もちろん,過去になれば「走っていた」です。このような人と時間のしくみを見ていく必要があります。

③「てにをは」でかたちが変わる。「本が」「本を」「本の」というようなさまざまな役割を示すとき,日本語だったら「が」「を」「の」をつけていきますが,ロシア語では語の最後の部分が変化してしまうのです。この独特の「てにをは」のしくみは,とくに注意しなければなりません。

どの場合でも,語の最後の部分が,文法のためにいろいろと変わっていくのです。この最後の部分のことを語尾といいます。ロシア語のしくみで大切なのは,こういったさまざまな語尾の変化です。

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1章 区別のしくみ

前のページでは,「ロシアの」「日本の」には3つのかたちがあることを見てきました。ロシア語の形容詞にはいつでも3つのかたちがあります。

3つのかたちとの結びつきは,これで全部です。まとめますと,

  1. 語尾で分類する。子音か,-aや-яか,-оや-е か。
  2. でも男女の区別のある語は,語尾に関係なく分類する。

(複数形)もしロシア話を使えるようになろうと考えているのだったら,こういうのは全部覚えてください,と厳しく注文をつけます。でも,いまはしくみだけを追いかけているので,こういうのもあるんだなあと思っていただくだけでけっこうです。ついでに,アクセントが単数と複数で違う位置にくることがあるんだということも,なんとなく覚えておいてください。

「ロシア語で窓はアクノー(開くの一)」というダジャレを聞くと,わたしはいつも鳥肌が立つほど気恥ずかしくなるのですが,語を覚えるためには仕方がありません。しかし複数にするときにはアクセントの位置が変わることも忘れないでください。

2章 人と時間のしくみ

このようにロシア語の動詞の基本形は,最後が-тьで終わっているものがほとんどです。そしてこの基本形が変化するときの基礎となります。だからまずはこの-тьのかたちを押さえる必要があるのです。

英語には現在進行形というのがあって,「~しているところだ」という動作を示す特別なかたちがありました。ロシア語には現在進行形がありません。文脈によって判断することになります。

このрешить のように,「最後までやってしまう」という意味も含んでいる動詞を完了体動詞といいます。それに対して,решать のように「最後までやったかどうかはどうでもいい,とにかくやっていたことが大切だ」という動詞は,不完了体動詞といいます。このように結果を重視する動詞と,そうではない動詞のしくみを,もう少し探っていきましょう。

結果を重視する完了体動詞と,そうではない不完了体動詞は,2つでセットになって補い合っているかのように見えます。(…)どうすればセットができるかは,-а-を-и-に変えたり,はじめにc-をつけたりと,それぞれ作り方が違うので予測できません。辞書にはこのセットが並べてあります。わたしはすべての動詞をセットにすることに無理があると思うのですが,ここでは一応そうしておきましょう。

3章 「てにをは」のしくみ

ロシア語の「てにをは」は,たとえば「~の」だけでもいくつかあります。たとえばИванのように子音で終わっているものには,-aをつけて「~の」を表しますが,Аннаのようにもともと-aで終わっているものでは,-aを取り去って-ы をつけて「~の」になるのです。

格には,そのままで使う場合と,前置詞と共に使って表現を広げる場合があります。

ロシア語はいろいろな格を使い分け,しかもそれに前置詞が加わって,複雑な表現を作っていきます。それぞれの格の語尾はほんの小さなものですが,これが正しくないと意味が通じなくなってしまうほど大切なのです。

前のページまでに,ロシア語の格6つを一通り見てきました。主格「~が」,生格「~の」,与格「~に」,対「~を」,造格「~で」そして前置格は常に前置詞と使います。これが基本です。/対応させた日本語訳はだいたいのところです。

4章 数のしくみ

数は丹念に覚えるしかありません。どんな言語でも,数字だけはまめに繰り返すのがコツです。道を歩きながら,お風呂に入りながら,とにかく小さな時間を見つけて練習してください。

かたちはともかく,しくみだけは確認しましょう。まず「1」は単数の主格と結びつきます。でもそのときにはмоиなどと同じようにグループ分けする必要があります。それから「2」「3」「4」は,理屈には合わないんですが単数の生格と結びつきます。そのとき「2」にはдваの他にдвеというかたちのあることに注意してください。そして「5」以上だったら複数の生格と結びつくのです。

5章 実際のしくみ

『ロシア語のかたち』(白水社)は,この『ロシア語のしくみ』の姉妹編です。こちらのほうはロシア語の文字であるキリル文字を知らない人のために,写真や図版を通して文字に親しんでもらうことを目指しています。文字という「かたち」にだけ注目しているので,その「しくみ」のほうにはまったく触れていません。

参考図書ガイド

詳しい入門書。順を追ってまじめに勉強していけば,ロシアを旅行するのに困らないだけの語学力が身につきます。

ロシア語の変化が詳しくまとめられています。変化形について細かいことを調べるときに便利です。文法の復習にもなります。

ロシアのことばや文化に関するエッセイ集です(すみません。わたしの著書なんです)。

ロシアに興味が出てきた人には次の本がお薦め。

現代ロシア事情をとにかく面白く紹介しています。ロシアファン必見。

ロシア語のしくみ 新版 | NDLサーチ | 国立国会図書館

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