Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

金指久美子『チェコ語のしくみ』白水社

なるほどチェコ語が複雑なことがよく分かった。しかし自分としてはなんとしてもものにしたい。

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1章 文字と発音のしくみ

チェコ語はロシア語と親戚関係にある言語です。ロシア語がキリル文字を用いて書き表すことは,わりあい知られているのではないでしょうか。(…)「親戚関係にあるのなら,チェコ語もキリル文字?」と考える人も少なくないのですが,幸いチェコ語はみなさんにとって馴染みのあるラテン文字,いわゆるローマ字を用います。しかも,1つの文字が原則として1つの音を表すのでそれほど難しくありません。

このように,チェコ語の基本は「ローマ字読み」ですが,c,j,chの発音はちょっと違うので気をつけてください。また,rが巻き舌であることもポイントです。

日本語は「おばさん」と「おばあさん」のように,「あ」が短いか長いかで意味が変わってしまいます。チェコ語も同様で,母音の長短が意味の区別に関わることがあるので,しっかりと発音し分けることが大切です。書くときも,'という記号を上につけて長く発音することを表します。

気をつけて欲しいのは,チェコ語は子音が2つ以上連続する語が多いということです。仮名で発音の目安を示すと,ここがうまく伝えられません。間に母音を入れ込まないようにしてください。

ひどくおおざっぱなことをいうと,濁点つきで発音すべき文字が語の最後にくると,その濁点をとって発音するという規則があるのです。

チェコ語のアクセントは語の中で最初にくる母音を表す文字のところにいつもあると述べました。ところが,子音のlとrにもアクセントがくる場合があります。これらの文字が他の子音を表す文字ではさまれていると,こんなことが起こります。

2章 書き方と語のしくみ

地元の理人の名前もカレンダーに載っています。男性のVáclavや女性のVěraがこれにあたります。(…)現代のチェコ人は男女合わせておよそ1000より少し多い程度の名前を用いていますが,この「地元」の系統が占める割合は30~35パーセントで,それほど多くありません。

「鈴木」や「山田」級に多いチェコ人の姓はNovákです

呼びかけ専用の形があることは受け入れるとして,uをつけたりoに換えたりいじらなくてよかったり,場合によっていろいろです。この「場合」ごとに整理して覚えなければなりません。なんとめんどうなことでしょう。しかし,この煩雑さがチェコ語のしくみの特徴です。

ときには子音を表す文字だけが並ぶ,ちょっと信じられないような文もできてしまいます。チェコ語を習いたての人が必ず目にする,あるいは発音させられる有名な文です。/Strč prst skrz krk!/Prst 「指を」skrz krk「喉に」strč「つっこめ」という,なんだか妙な意味ですけど。

省略形は書くときの手段であり,話すときは文字の名称を使わないことがチェコ語はわりと多いのです。

一番頻繁にでてくる語は何でしょう。2004年に出版されたチェコ語頻度数辞典からベストテンを挙げてみます。/①a「そして」,②y「~の中で」,③se「自身を」,④být「~だ」,⑤na「の上で・へ」,⑥ten「その」,⑦s「~と共に」,⑧že「~ということ」,⑨「〜から」,⑩který「どの」

3章 文のしくみ

チェコ語は「~している」と「~する」の間に形の区別がありません。

チェコ語の文法は,語の形をとても大事にします。Janaに対して呼びかけるときにはJanoとしなくてはなりませんでした。語の形とはこのことです。最後のaを取り去って,かわりにoをつける。このつけかえ可能なaやoを語尾といいます。そして,尾の前の形を変えない部分を語幹といいます。Janaの中のJanが語幹というわけです。

英語には冠詞というものがありました。a(an),theのような種類の語ですね.これはチェコ語にはありません。

チェコ語の文法が語の形をとても大事にするということは,前のコラムで述べました。語の形とは,時と場合で語尾をいろいろとつけかえることによって変化するのでした。この。「時と場合」を整理してみます。

  1. 相手によって形が変わる。/「古い店」,「古い郵便局」,「古い町」。(…)チェコ語は名詞「店」,「郵便局」,「町」にあたる語がそれぞれ別のグループに属しているため,「古い」の語尾が変わります。

  2. 誰がするかによって形が変わる。/これは動詞の語尾をつけかえる規準です。その動作をするのは誰なのかは,主に人称と数によって分類します。

  3. 「てにをは」によって形が変わる。/名詞の語尾をつけかえるとても重要な基準です。文の中でその名詞がどんな働きをしているのか,つまり「~は」といいたいのか,「~を」といいたいのかなどによって名詞の形が変わります。また,同じ「~を」でも属するグループによって語尾が違うので,かなり複雑です。

このように,チェコ語は語尾のつけかえが大変重要なのです。つまり,多くの語が語尾によって「人」,「時間」,「てにをは」など何らかのシグナルを文の中で常に発しています。このシグナルを正確にキャッチできなけれは,チェコ語のしくみがつかめたとはいえません。

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1章 区別のしくみ

それぞれの語の最後の文字に注目してください。そう,obchodのグループはすべて子音を表す文字が最後にきています。それに対してpoštaのグループは最後がa, městoのグループは最後がoで終わっています。語の最後を見て分類するのが,名詞の区別の基本です。そして,名詞のグループごとに,前につく形容詞の語尾をý,á,éから選び出します。子音で終わるグループにはýを,a で終わるグループにはáを,oで終わるグループにはéをつけるというわけです。

それでは,区別のしくみに注意して文を作ってみましょう。I部で頻繁に登場した,To je~。「これは~です」にあてはめてみます。/To je český film. これはチェコ映画です。/こんなふうに簡単に文ができます。

日本語だと,「自転車」と「本」のように語を1つ交換すればそれだけで文ができるのに,チェコ語では常に区別のしくみを気にしながら文を組み立てていきます。逆に,どういう意味か調べるときには,子音で終わる名詞につくときの形は何だったが常に考えながら,辞書を引かなくてはなりません。

名詞は3つのグループに分かれるのだとず一っと述べてきました。慣例として,子音で終わるグループは男性名詞,aで終わるグループは女性名詞,oやiで終わるグループは中性名詞と呼ばれています。実は,男性名詞にはaで終わる名詞とeで終わる名詞も入ります。

統計によると,チェコ話の名詞の40.88パーセントが子音で終わる男性名詞です。それに対して,子音で終わる女性名詞は9.26パーセント,つまり,子音で終わる名間は4対1の確率で男性名詞です。aで終わる名詞は,チェコ語の名詞の21.92パーセントが女性名詞,男性名詞は1.10パーセント。その差は圧倒的です。しかもaで終わる男性名詞は必ず男の人の名前,姓か男の人の職業名です。eで終わる名詞についても統計を見てみましょう。女性名詞が6.21パーセント,中性名詞が1.09パーセント,男性名詞が0.39パーセントです。そしてeで終わる男性名詞はやはり必ず男の人の名前,姓か男の人の職業名を表します。

(複数形)子音で終わるグループには語尾yを加え,最後がaで終わる名詞には語尾aを取り去ってからyをつけます。oで終わる名詞は,語尾のoをaにつけかえます。

2章 人と時間のしくみ

辞書の見出し語として出てくるチェコ語の動詞の形は必ず最後がtでした。まず,見出し語の形から最後の2文字を取り去ります。そして,「私」jáが主語だと語尾ámを,「君たち」,あるいは丁寧にいうときの「あなた(一人)」vyが主語のときは語尾áteをつけます。「その人」,つまり「彼」onや「彼女」onaが主語なら語尾はáです。

チェコ語はその動作をしている最中に注目するのか,それとも完成した点に注目するのかによって動詞を使い分けます。そして,「~している」に近い動作を不完了体,「~してしまった」に近い動作を完了体といって区別します。原則としてチェコ語の動詞はどちらかのグループに入ります。

2番目に置くべき語をしっかり考えた後,いいたいことを一番最後にもてくるのが原則です。

3章 「てにをは」のしくみ

このように,動詞と組み合わせるとき,日本語とチェコ語の「てにをは」がずれる場合があります。大抵は一致するので,それほど心配はありませんが,「分かる・理解する」とか「質問する」とかよく使いそうな語がずれてしまっています。数は多くないけどよく使う語に限って規則どおりにいかない。チェコ語に限らずこういうことって外国語を学んでいるときにはよく感じるものです。ただ,チェコ語はこの規則そのものがちょっと覚えづらいものですから,せっかく覚えた規則が使えないというのはがっかりしますけど,でも,気を取り直してがんばりましょう。

チェコ語の「てにをは」のしくみをここでまとめておきましょう。

  • 1格(主格)〜は・が
  • 2格(生格)〜の
  • 3格(与格)~に
  • 4格(対格)~を
  • 5格(呼格)〜よ!
  • 6格(前置格)(~について)
  • 7格(造格)~で・によって

日本語の「てにをは」とチェコ語の「格」,いったいどこが違うのでしょう.「てにをは」はどんな名詞にもすぐにつけることができます。「プラハの」「城の」「ブルノの」……。ところがチェコ語の「格」は,その名詞がどのグループに入っているのかによってつける語尾が違います。Prahy,hradu,Brna……。ここが日本語と違ってやっかいなところです。

こんな調子で,名詞は単数と複数でそれぞれ7つの格を表すので1つの語がのべ14個の語尾をもっていますし,形容詞や「その」などもそれに合わせて語尾を取り換えます。

4章 数のしくみ
  • 0 nula
  • 1 jedna
  • 2 dvě
  • 3 tři
  • 4 čtyři
  • 5 pět
  • 6 šest
  • 7 sedm
  • 8 osm
  • 9 devět
5章 実際のしくみ

切手がお土産?と変に思う方がいるかもしれません。でも,切手はチエコスロヴァキア時代から優れたデザインが次々と生み出されてきました。そのため,コレクターの間では根強い人気を誇っています。

参考図書ガイド

コンパクトな教材ですが,基本文法はひととおり身につきます。

基本文法をもう少し超えたレベルの文法まで学べます。現代の新聞,雑誌,小説をチェコ語で読みたい人のために,

覚えた文法事項や語彙を確実に自分のものにするための練習問題集です。

小さくて軽いにもかかわらず,およそ20000語が収録されています。

日本で出版されたチェコ語の教材は,もう少し難しい内容のものや語彙集,会話集を含めてもそれほど多くありません。全部積み上げてみたところで,15センチに達しますかどうか。でも,さまざまなレベルの教材がようやく揃ってきました。選択肢は少ないのですが,ご自身の目標に合ったものがきっと見つかると思います。

チェコ語のしくみ 新版 | NDLサーチ | 国立国会図書館

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