ずっと読みたかった本,ようやく読んだ。著者のいうように,「本書はおそらく,オウム論としてはかなり異色のものになるのではないだろうか。オウムに直接関係していることがあまり論じられず,むしろオウム的な精神の由来についての分析に,紙数の大半が割かれるからである」。その「オウム的な精神の由来」は,サブタイトルにある「ロマン主義」「全体主義」「原理主義」であり,著者は「オウムとは,ロマン主義的で全体主義的で原理主義的なカルトである」と結論づけている。
冒頭で著者は,オウム関連の書籍を「元信者たちの著作」「ジャーナリストたちの著作」「学問的著作」の三種類に分類している。それぞれの代表的な著作を紹介・評価し,「元信者たちの著作」と「ジャーナリストたちの著作」には一読の価値があるものがあるが,「学問的著作」――中沢新一や宮台真司や大澤真幸などの――は「視野が狭すぎる」ないし「視野が広すぎる」として批判的に取り上げている。
研究者たちは,オウム事件に対して冷静で客観的な分析を行うどころか,オウム信者や社会一般に対する筋違いな扇動を行ったり,過去の自らの言動に対する弁明に終始したりといった振る舞いを,しばし露呈したのである。
「ロマン主義」「全体主義」「原理主義」それぞれに対する記述はそれぞれに面白いが,いちばん印象に残ったのは,麻原彰晃についての箇所だ。すなわち,「盲学校で長い期間を過ごしたとは言っても,麻原は決して全盲というわけではなく,右目はかなり高い視力が保たれていた」「全盲の生徒たちが大半を占めるなか,自分だけは目が見えるという環境もまた,彼に特異な自意識をもたらすことになった」。そして,
左目が見えず,右目が見えるという身体的な条件によって,奇しくも麻原は,国家や家族,学校の教師や仲間たちから疎外されるという状況に追い込まれることになった。〔…〕言わば麻原はその両目で,光と闇の世界,虚と実の世界を同時に見つめながら,自分が生きてゆくことのできる世界を懸命に模索することになったのである。
"In the kingdom of the blind, the one-eyed man is king." を思い出した。
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