Q&A形式になっているところがどうかなーと思ったけど,内容としては包括的でわかりやすい記述になってる。
はしがし
日本の損害保険の市場規模は世界147カ国中でアメリカ。中国、ドイツに次いで第4位です。しかしながら、GDPに対する割合でみると2.37%で23位となり、世界平均の2.81%さえ下回っています。/ 企業保険と個人保険の区分別統計データがないので、企業保険だけの実態は不明ですが、日本の損害保険市場の60%以上が自動車保険(自賠責を含む)であることから類推すると、個人保険の依存度が大きいと思われます。おそらく、企業保険だけの統計があれば対GDP割合はもっとずっと下位になることでしよう。
第1章 企業経営とリスク
企業経営に関する損失発生可能性のうち、企業保険を活用することによってコントロール可能なものが「リスク」です。そして、「リスク管理」は、避けるべきリスクを避け、取るべきリスクを取るという経営判断を行うために、適切にリスクを管理すること、を意味します。/ 細かいことを言えば、「リスク」の中では、企業保険の活用可能性が必要条件となります。他方、「リスク管理」の中では、企業保険の活用可能性は必要条件ではありません。最終的に,そもそもリスクを取らないことがあり、仮にリスクを取る場合でも企業保険を活用しないことがあるからです。
会社が「適切に」「儲ける」。すなわち、会社自身に「リスクセンサ一機能」と「リスクコントロール機能」を備えさせるためには、一方で,全従業員がリスク対策する必要があり、他方で、リスク統括部門が必要です。
第2章 海外子会社のリスク管理
実際、欧米のグローバル企業ではブローカーがリスクマネージャーの役割を果たしている例があります。/ この問題は、社外の機関が、①全社的で部門横断的なリスクを、②会社の置かれた状況や専門性を十分理解して、③適切にリスク分散し、コントロールできるかどうか,という問題です。
中国自体には、厳格な付保規制というルールがあります。/ したがって、Xが中国に有する法人や資産に関し、Xの日本本社が日本の保険会社との間で保険契約を締結することは不可能です。中国の保険会社である必要があります。/ この点は、簡単に間違いをしてしまい。しかも保険会社だけでなくXに対しても、不利益が生ずる可能性があります。非常に危険な問題です。/ 例えば、世界各国で商品を販売するXの日本本社が、PL保険を購入します。そのPL保険証券に、カバーする被保険者として中国の子会社を記入してしまえば、それが、中国のルール違反になってしまうのです。/ 仮に中国で保険事故が発生した場合,中国政府に分からないように、日本の保険会社からXの日本本社に対して保険金を支払ってしまえば良いではないか、という荒っぽいことが、過去実際に広く行われていたようですが、現在はその危険性がかなり認識されてきました。中国政府の方針によっては、保険会社だけでなく文にも不利益がかかるからです。つまり。リスクを渡らすために掛ける保険によって、かえって別のリスクが生じてしまうのです。
第3章 国際企業保険の注意点
保険料税は、その税日はさまざまですが、所定の保険に加入した保険契約者が、保険料の支払いに際して納めなければならない税金です。保険料を受け取る保険会社の側ではなく、保険料を支払う保険契約者の側が、税金を支払わなければならないのです。/ 具体的な税目としては、保険料税(Insurance Premium Tax)という名称の税が課される場合のほか、付加価値税(Value Added Tax),消費税(Goods & Service Tax),印紙税(Stump Duty)等があります。/ しかし、海外で事業を展開し,それぞれの国で保険に加入している事業会社であっても、保険料税が徴収されていることに気づかない場合があります。/ それは、保険料の請求方式に関し,保険会社が保険料税を含めて計算した保険料を請求する方式が採用されていて、保険料の請求書には税金が明記されていない場合(内税方式のような方式)があるからです。/ これに対し、多くの国では、保険料の請求書に保険料と税金の両方が明記されている方式が採られています。/ いずれにせよ、リスク所在国で保険料税が課される場合には、事業会社は保険料税を負担しなければならないのです。
タイも、同じように海外からの付保が可能ですが、海外からの損害調査ができません。/ つまり、Xの日本本社が日本の保険会社と締結する企業保険の中で、タイの工場も保険対象にすることが可能です。けれども、工場で問題が生じた場合、Xのタイ工場は自ら損害調査会社を雇い,保険金支払いに必要な調査業務や書類作成をしてもらわなければなりません。
第4章 企業財物保険
以上のように、補償範囲が広がってきたことから、「火災保険」という名称は、もはや実態に合致しません。/ このことから、【火災】【天災】【人災】【事故】【費用】が広くカバーされる。という意味で、「総合保険」「包括保険」等の用語が用いられるようになりました。/ けれども、注意が必要です。/ これに,【動産】【利益】賠償責任保険(第5章参照)まで含めた広い補償も提供されており、これも「総合保険」「包括保険」等の用語で表現する場合があります。/ このように、名称を見ると、火災だけ補償されるのではない、ということは理解できるのですが、実際の補償範囲は理解できない状況になってしまったのです。/ したがって、企業向けの財物保険に加入する場合には、名称ではなく、その補償範囲を正しく理解しなければなりません。そのためには、ここで検討したような「大まかな」視点も便利です。細かく検討する姿勢と、大きく概観する姿勢の両方を使いこなしましょう。
一般的な日本の工事請負契約書では、引渡し前までの工事対象物の所有権は工事業者にあり、工事対象物が事故にあった際の損害も工事業者が被ることになります。そのため、工事保険は工事業者が手配することが一般的となっています。そして工事業者が手配する工事保険は地震リスクを補償していないものがほとんどです。/ なぜなら、工事請負契約書には工事業者の免責事項、すなわち工事業者が責任を負わない事項が規定されており、地震や津波などは免責事項に規定されているからです。/ 工事業者が責任を負わないということは、発注者の損害になるということです。したがって、地震リスクを考えた場合。発注者が地震リスクをカバーする工事保険を手配する必要があります。
このように、BIこそ保険が役立つはずであり、欧米企業ではPDとBIにセットで加入する割合が90%程度と言われますが、日本企業では、PDへの加入割合が90%以上であるのに対し、BIへの加入割合はわずか20%以下と言われますね。決して新しく商品開発されたわけではないBIなのに、なぜこうまでPDとの間に加入率のひらきがあるのでしょうか?/ 1つ目の理由は、日本の企業火災保険が普及してきた歴史的背景があると思われます。銀行が融資の担保とした建物の担保価値の保全のため、企業に半強制的に火災保険をかけさせ、保険証券に質権を設定して債権回収を確実にしてきたことが影響しているのではないかと思われます。質権設定とは火災発生の際,銀行が融資残高まで優先的に保険会社から保険金を受け取れる仕組みです。かつては銀行にとっては企業の事業継続より、担保価値保全が優先事項であり、PDだけが広く普及したのではないかと思われます。/ 2つ目の理由は企業側のBIの重要性に対する認知度不足があげられます。過去の歴史がどうであれ、企業がBIの重要性を認識すれば、おのずと加入率は上がるはずです。そもそも、BIという保険の存在さえ認識していない経営者もいるのではないでしょうか? ここには保険を提案する保険会社・保険代理店側にも問題があるのではないかと思います。目に見える建物や機械設備に対する保険の提案は簡単ですが、得られるはずの利益の減少や発生するかもしれない費用に対する保険の提案は高度になります。さらに財務上の損失を補償する保険なので、財務諸表を理解していないと提案できません。このため、保険の営業現場では、さほど積極的にBIの提案がなされてこなかったものと思われます。/ 3つ目の、最も重要な要因はリスクマネージャーの不在でしょう。火災保険を総務部が担当していては財務上の損失リスクには目が届きません。財務部が担当しても保険料を単なる経費としてしか認識せず,リスクを見ずに経費削減の手段として保険料圧縮に走る可能性もあります。欧米の企業には当たり前のようにリスクマネージャーがいて、当たり前のように重要性の高いBIに加入しています
第5章 賠償責任保険
賠償責任保険は、必要に応じて開発されてきた結果、以下のような多様な保険があります。だからこそ、まとめてカバーするCGLが開発されました(Q5-3参照)。/ ●伝統的な賠償責任保険(本章): 施設所有管理者贈償責任保険,請負業者賠償責任保險,生産物賠償責任保険,受託者賠償責任保険,自動車箵理者賠償責任保険、旅館賠償責任保険、運送業者貨物賠償責任保険、LPガス事業者賠償責任保険など/ ●経営リスク保険(フィナンシャルラインの賠償責任保険,第6章): 役員賠償責任保,情報漏洩賠償責任保險,專門事業者賠償責任保險,医師賠償責任保険,公認会計士賠償責任保険,建築家賠償責任保険,弁護士賠償責任保,司法書士賠償責任保險,宅地建物取引士賠償責任補償制度など/ ●その他賠償責任に類する保険: 瑕疵保証責任保険,約定履行費用保険など
CGLはCommercial General Liabilityの頭文字を取ったものです。日本ではまだなじみが薄いですが、欧米のスタンダードとなっている保険です。企業が負うことになるさまざまな賠償責任を広くカバーする保険として、特に海外に事業を展開している企業にとって、知っておくべき保険です。
この保険はアメリカで発展しましたが、かっては、Cの部分は Comprehensiveを意味しました。しかし、何でもカバーしてもらえるという誤解も原因となって訴訟が急増したことから、保険内容の見直しと共に,Cの部分はCommercialに置き換えられています。/ 他方、イギリスで発展した同種の保険は、P&Pと称されます。これは、Product Liability(製造物責任保険)と,Public Liability(一般責任保険)を合わせたもの,という意味です。
第6章 経営リスク保険
フィナンシャルラインの主な商品は、それぞれ後に検討しますが、①会社役員賠償責任保険(D&O),②雇用慣行賠償責任保険(EPL), ③サイバーセキュリティー保険,④企業包括補償保険(コマーシャルクライム),⑤専門職業賠償責任保険(PI, E&O)等があります。/ フィナンシャルラインという総称は、伝統的な賠償責任保険とは別のカテゴリーとして、フィナンシャルロス(経済的損失)のみを補償する保険として開発されたことに由来します。/ 商品の特性としては、1つひとつの事業や資産ではなく、経営全般に関わるリスクをカバーする商品が多いことが、上記ラインアップを見てもご理解いただけると思います。
EPLは、雇用に関わる損害賠償責任を補償する保険であり、D&Oでカバーするリスクと一部の範囲が重なります。/ しかし、D&0は主に役員や管理職従業員の個人の責任をカバーするのに対し,EPLは主に会社の責任をカバーします。もっとも、EPLも、会社の責任に加え、役員や従業員の個人責任もカバーできるようになっています。
企業包括補償保険(以下、「クライム保険」と言います)は、英語でCommercial Crime Insuranceと表記されます。/ すなわち、従業員や第三者による犯罪被害による損失をカバーするものです。
専門職業賠償責任保険(以下、「PI」と言います)は、英語でProfessional Indemnity と表記されます。/ これは、専門職それぞれの専門業務に基づく損害賠償責任をカバーします。例えば、建築設計・施工監理業者向けの保険であったり、弁護士向けの保険であったりします。これら専門事業者が、その業務過誤によって、第三者に対して経済的な損害を与えた場合の賠償責任をカバーするのです。
第7章 ボンド
これは、公共工事の発注者である公共団体が、工事受注者(ゼネコンなど)に対して、受注の条件の1つとして,ボンドの提出を要求することによって発行されます。/ 日本の場合を紹介しましょう。/ 日本では、発注者は、金銭的保証か役務的保証のいずれかを要求します。このいずれかによって、受注者の選択肢が決まってきます。/ 第1に、金銭的保証の場合です。/ 受注者は、契約保証金(現金),有価証券等(国債等),金融機関の保証(保証書),前払保証事業会社の保証(契約保証証書),履行保証保険(証券)、公共工事履行保証証券(履行ボンド)を選択できます。/ 第2に、役務的保証の場合です。/ 受注者は、公共工事履行保証証券(履行ボンド)を選択できます。
第8章 リスクエンジニアリング
リスクエンジニアリングは、リスクの洗い出し(調査、リスクアセスメント)、リスク評価(点数評価、グレーディング)、改善提案の3要素で構成され、「リスクの見える化」を提供するサービスです。
リスクアセスメントは、建物、機械設備装置、工程管理、製造物の研究開発、品質管理、物流管理、サプライチェーンの管理、セキュリティ,ライフセイフティ、工事プロジェクトなど、幅広い事象が対象となります。/ ① 財物に対するアセスメント:財物(火災),自然災害。機械故障,事業中断,等/ ②賠償責任に対するアセスメント:CGL,製造物賠償責任、製品リコールや復旧計画,工事関連の賠償責任,ライフセイフティアセスメント、等/ ③ 工事に関するアセスメント:立地条件,工事計画(契約。組織,工程),ロジスティクス(輸送,仮置き)。工事理,品質管理,運転計画。等/ ④ 貨物海上輸送に対するアセスメント:貨物梱包,コンテナの積み込み、セキュリティ,マリンターミナルの操業、プロジェクト貨物、等/ ⑤ その他(損失に対するアセスメントなど)
第9章 事故と保険金請求
まとめ
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I029853826
339.5
