第1章 親と先生にできること
いま挙げた3つの例は、いずれも「授業や学習環境」と「子どもの特性」が合っていないというパターンです。子どもが教室を飛び出すことには、じつはそのような「相性の悪さ」が影響していることもあります。子どもが教室を飛び出すことが悪いわけではなく、先生や親のやり方が悪いわけでもなく、相性が悪いのです。
「相性の悪さ」がある場合には、誰か一人だけが工夫をするのではなく、全員でその状況を理解し、協力することが大切です。この本では、そのように家庭と学校が「協力すること」の大切さを伝えていきたいと思っています。家庭と学校が協力し、子どもに合った環境を整えていけば、「相性の悪さ」は軽減していきます。
第2章 学校の中の発達障害
第1章でも少し説明しましたが、「発達障害」にはいくつかの種類があります。「自閉スペクトラム症」や「注意欠如・多動症」「学習障害」などの種類があり、それらをまとめて発達障害といいます。発達障害は、いくつかの障害の総称なのです。/ ですから同じ発達障害でも、自閉スペクトラム症の特性がある場合と、注意如・多動症の特性がある場合では、発達のスタイルも、悩みや困りごとも異なります。それぞれの特性を理解しておくことが大切です。
自閉スペクトラム症/主な特性は「臨機応変な対人関係が苦手」「こだわりが強い」の2つです。子どもの学校生活ではそれらの特性によって、一人でいることを好む、会話がかみ合わないことが多い、特定の教科や活動に強い興味を持つ、行事などの予定や手順にこだわる、といった特徴が見られることがあります。特定の光や物音、においなどに敏感または鈍感になるという、感覚的な特徴が見られる子もいます。/ 自閉スペクトラム症の特性がある子は、ほかの子と感情を分かち合うことよりも、自分の好きなことや好きなやり方を追い求める傾向が強くなりがちです。そのため「マイペース」な印象になりやすく、集団の中で浮いてしまうこともあります。
例えば、自閉スペクトラム症の子が「一人でいることを好む」というのは、「みんなと一緒にいられない」というよりは、本当に一人でいるのが好きな場合も多いのです。そのことは以前に、拙著『発達障害生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(SB新書)で、「選好性」の違いだと書きました。発達障害の子どもたちは、ほかの大多数の子どもたちとは、志向が違うだけなのだと思います。/ そう考えると、発達の特性は必ずしも短所になるわけではなく、裏を返せば長所にもなり得ることに気づきます。例えば「一人でいることを好む」ことは、集団の中では「自分勝手」と言われるかもしれませんが、裏返せば「独立心がある」ということであり、「人に流されずに行動する強さ」があるとも言えます。
では、学校に行く目的とはなんなのか。私は、学校というのは「社会に出ていくための土台をつくる場所」だと考えています。子どもたちがなんのために学校に行くのかというと、社会で生きていくうえでの基礎を学ぶためです。子どもは一人の社会人になるために、そのプロセスの一部として、学校に通うのです。
私たち専門家は、発達障害の子を支援するために、環境を「視覚的構造化」することがあります。発達障害の子、特に自閉スペクトラム症の子は、曖昧なものごとを理解するのが苦手です。例えば大人から「きれいに片づけよう」と言われたとき、どのくらい「きれいに」するのかが判断できず、困ってしまうことがあります。そのようなタイプの子は絵や写真、文字、実物などの視覚情報があったほうが、判断しやすくなります。そのように視覚的な枠組みを示して、子どもに情報をわかりやすく伝えることを「視覚的構造化」といいます。
学校の先生には、先生としての教育方針があります。先生として「こうしたい」という考えがあるわけです。それに対して親が「こうしてほしい」という思いをぶつけると、先生の考えを通すのか、親の考えを通すのか、どちらかを選ぶ競争のようになってしまうことがあります。そうなると、話し合いがうまくいかなくなる場合が多いです。学校に困りごとを伝えるときには、「要求」ではなく「相談」になるように心がけることが大事です。
第3章 学力と知的障害・学習障害
家庭と学校で協力して、宿題を調整できればよいのですが、もう少し突っ込んだ話をすると、私は宿題のためにそこまでしなくてよいとも思っています。子どもたちは、学校でしっかり授業を受けていれば、十分に学習をしているはずです。/ 私は多くの子どもたちをみてきましたが、宿題があってもなくても、勉強をやりたい子はやります。やりたくない子はやりません。勉強というのはそういうものです。また、宿題をやりたくない子も、興味を持てる内容のときには自発的にやることもあります。一方で、勉強が好きな子でも、簡単すぎる宿題ではやる気になれなかったりします。
第4章 特別支援教育
第5章 これからの学校教育
学校の中の発達障害 : 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち (SB新書 ; 594) | NDLサーチ | 国立国会図書館
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