付録として〈コツ〉がまとめられているのが有益。内容は同じ著者の岩波新書と同じなので,新書を読んだ人がこちらを読む必要性は,限りなく薄い。
プロローグ
このような学問的な背景、そして外国語学習を効率よく行いたいという社会的要請を背景に、「外国語学習」という現象そのものを対象とした学問分野が一九六〇年代ごろから発達してきました。これが、「第二言語習得(Second Language Acquisition = SLA)」という新たな研究分野です。
このような複雑な現象を理解するためには、さまざまなアプローチが必要となってきます。まず、「言語」という複雑なシステムの習得を対象とするため、言語学からの知見が役に立ちます。次に、「学習」という心的活動を扱うので、心理学的なアプローチも必要です。さらに、言語と社会・文化は密接な関係にあるので、社会学、文化人類学なども重要な示唆を与えてくれます。また学習はいうまでもなく脳でおこるので、脳科学の観点からアプローチする研究者もいます。簡単にいえば、第二言語の習得・使用という認知活動を学際的に研究するのが「第二言語習得」という学問分野といえるでしょう。
本書の構成は以下のようになっています。まず、第1章と第2章で、日本人はなぜ英語が下手なのか、という問題に答えます。第1章では学習動機の弱さ、第2章では日本語と英語の距離、という要因をとりあげて、日本人の英語下手をそれぞれ説明します。第3章では、外国語学習にどんな学習者が成功するか、年齢、性格、適性など、いくうかの要因についてその影響を論じます。第4章では、第二言語習得がおこるメカニズムについて、これまでにわかっていることを説明します。第5章では、効果的な教授法・学習法の問題を、第二言語習得研究の歴史をたどりながら検討します。最後に、付録として、今までの研究成果から、外国語学習のときに気をつけるべきことをまとめてみました。
1 日本人はなぜ英語が下手なのか:その1 動機づけ
日本人が英語ができない、もう一つの大きな理由は、動機づけの弱さです。つまり、日本にいれば、英語が使えなくても実際問題としては困らないのです。
ガードナーの論点で重要なのは、道具的動機づけは外国語学習の成功と結びっくが、その成功は短期的なもので、長期的には統合的動機づけのほうが重要になり、また統合的動機づけはほとんどの研究で外国語学習の成功と結びついている、ということです。
2 日本人はなぜ英語が下手なのか:その2母語の影響
日本人が英語ができないもう一つの理由に、英語と日本語はかなり異なった言語である、ということがあります。当たり前の話ですが、学習者の母語と、学習対象となる言語が、似ていれば似ているほど、学習はやさしくなります。日本語と英語は、言語の系統的にもかなり異なっており、たとえば、英語と同じインド=ヨーロッパ語族に属する言語を母語とする学習者に比べると、日本人学習者はかなり不利になります。
言語転移がおこる条件はいくつかあります。たとえば学習環境について言うと、外国語を読んで訳すという「文法訳読方式」中心で教えているところでは転移がおこりやすく、それに対して学習者の母語を使わず、主として学習対象言語によるコミュニケーションを通して教えているところでは転移がおこりにくいということがあります。
スピーキングを強制すると転移がおこりやすいということも言われています。前出のクラシェンが言ったことですが、学習者の外国語能力がまだ一定のレベルに達しないうちに、無理に話させると、結局学習者は母語に頼って、その母語の文法に適当に第二言語の語彙量をくっつけて、なんだか変な外国語をしゃべる、という状況になります。
3 外国語学習に成功する人、しない人
習得の成否の個人差を説明する一つの要因として第二言語習得研究で受け入れられているのは、年齢です。これについては「臨界期仮説」という名前がついていて、外国語学習には、臨界期、すなわち、その時期を過ぎると学習が不可能になる期間がある、という考え方です。
4 外国語が身につくとはどういうことか
第一・第二言語習得研究において、インプット(聞くこと・読むこと)だけで言語習得が可能か、それともアウトプット(話すこと・書くこと)が必要か、という論争があります。これは主に幼児の母語習得に関する論争なのですが、外国語の学習にも密接に関係してきます。
しかし、このインプット仮説では説明できない現象があります。一つは「テレビからは言語習得ができない」という現象です。親が聴覚障害でことばが話せなかったため、テレビを見て育った子どもがいたのですが、ケースワーカーに発見されたときの言語能力は、テレビを理解する能力はあっても、話させると文法的にはかなり不自然だったといいます。
さらに、受容的バイリンガルのケースもインプット仮説への反証になります。受容的バイリンガルというのは、聞いて理解することはできるが話すことができないバイリンガルのことで、移民の二世、三世にはよくあります。
言語習得がおこるために必要な最低条件は、インプット+「アウトプットの必要性」ということになります。アウトプットの必要性さえあれば、実際に話さなくとも、頭の中でリハーサルをすることによって、話せるようになる、という仮説が立てられます。
このようなリハーサルの効果は絶大だと思われます。まず、口に出すか出さないかの違いだけで、頭の中で英語を話しているので、英語を話している時間が二倍、三倍に増えるようなものです。さらに、頭の中で文を組み立てるレベルまでもっていかなければならないので、インプットを聞くときの集中度も高まり、言語処理のレベルも高まります。実際に英語を話す時間はなくとも、英語でアウトプットする必要性があるだけで、リハーサルの効果により、言語習得のスピードが上がると考えられます。
最近、この記憶の容量(作動記憶=ワーキング・メモリー)が、外国語学習の適性と関係がある、という提案もなされています。つまり、一度に処理できる容量の大きい人が、外国語が上手になる、という発想です。
結論的には、次のようなまとめが現実的なものでしょう。/(1)言語習得は、かなりの部分がメッセージを理解することによっておこる。/(2)意識的な学習は、/(a)発話の正しさをチェックするのに有効である。/(b)自動化により、実際に使える能力にも貢献する。/(c)ふつうに聞いているだけでは気づかないことを気づかせる効果がある。
5 どんな学習法なら効果があがるのか
付録 知っておきたい外国語学習のコツ
おわりに
参考文献
外国語学習に成功する人、しない人 : 第二言語習得論への招待 (岩波科学ライブラリー ; 100) | NDLサーチ | 国立国会図書館
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