Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

メアリアン・ウルフ『プルーストとイカ:読書は脳をどのように変えるのか?』インターシフト

「プルースト」という名前,あるいは「プルーストとイカ」という数奇な組み合わせに惹かれて手にとってみたけど,

思ってたのと全然違ってた。(何を思ってたかと聞かれれば,何も答えられないんだけど)

内容はこんな感じ。

書字の起源や多様性、変形能力の素晴らしさを紹介し、文字を読む脳の発達、読字習得に至るまでのさまざまな経路を新しい観点から克明に描く。また、ディスレクシア(読字障害)などについても取り上げる。

著者は

タフツ大学のエリオット・ピアソン小児発達学部教授、読字・言語研究センター所長。専門は認知神経科学、発達心理学、ディスレクシア研究。「プルーストとイカ」でマーゴット・マレク賞受賞。

ってな感じで,いやほんと「字や本を読む」ということについて,ミクロ(というのはニューロンレベル)の話からマクロ(歴史を含む,ソクラテスが書き言葉を嫌っていたとか)の話までを丁寧にカバーするもので,いや立派な本だとは思うんだけど,今読みたい本じゃなかったって感じ。

面白いエピソードもたくさんあって,例えば「表音文字と表意文字とでは使われる脳の領域が違うから,英語と中国語のバイリンガルが脳梗塞になった際,中国語は読めなくなったが英語は読めていたような症例がある」とか。

ちなみになんで「プルーストとイカ」かというと,これらはふたつとも象徴的で(プルーストの引用は数多く本書に出てくるけど),

本書では,読字のまったく異なる二つの側面を説明するため,メタファーとしては有名なフランスの作家マルセル・プルーストを,また研究例としては非常に過小評価されているイカを取り上げてみる。プルーストは読書を,人間が本来ならば遭遇することも理解することもなく終わってしまう幾千もの現実にふれることのできる,一種の知的“聖域”と考えていた。〔中略〕一九五〇年代の科学者たちは,臆病なくせに器用さも備えているイカの長い中枢軸索を研究対象として,ニューロンがどのように発火,つまり興奮して,情報を伝達しあうのあ,解明しようとした。なかには,何かがうまくいかなかった場合に,ニューロンがどのように修復,補正するのか調べようとした科学者もいる。〔中略〕人間の脳が読むために行わなければならないことと,それがうまくいかなかった場合に適応する巧みな方法に関する研究には,初期の神経科学におけるイカの研究と相通じるところがある。