Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

セオドア・P・ジョーゲンセン『ゴルフを科学する』丸善

図書館でたまたま手に取ったけど,そうか,『The Physics of Golf』の翻訳か(あとで読もうと思ってずっととっておいたはずだったけど,書棚からなくなってた)。

この本がDプレーン理論の発端だとは知らなかった…。スイングの解析――まだ動画がなくて写真からヘッドスピードなんかを計算していた――から,インパクト時のクラブヘッドスピードを上げるポイントは切り返し時のコック角にあるという結論は興味深いし,最終章におけるハンディキャップシステムの分析――シミュレーションを実行している――によって,ハンディキャップシステムは上手い人に有利という結論も納得できる。ゴルフクラブのマッチングについても,そのための3つのパラメーターを示していて,スイングウェイトだけにこだわるのは無意味だということがよく分かる。スイング中のシャフトのしなりについても,人間の手は万力じゃないんだから,計測された振動数と同じ振動がスイング中に起こらないよね,というのも,その通り。

ということで,多くのゴルファーが一度は目を通すべき本だと思うけど,残念ながらこの本,訳と校正がザルなんだよね。

  • p.2:「スポルディング社が英国人ハリーバードンを米国に招待し」(ここだけ姓名のあいだに中黒なし)
  • p.35:「二種類ののトルク」
  • p.41:「『パーフェクトゴルフ』からの一節を引用する」(原題出せよ,邦訳あるなら版元出せ)
  • p.115:「ある面に対して垂直な方向をその面に対する『ノーマル(垂線)方向』といおう」(このあとずっと「ノーマル方向」って訳出してるけど,「垂線」とか「法線」とか「直交」って日本語があるんだからそれでいいだろ)
  • p.127:「曲げられた左の下腕を」(→前腕)
  • p.139:「第一モーメントをマッチィングさせたクラブは」(他では「マッチング」)
  • p.151:「シャフトは『仕込まれる』という」(たぶん「load」なんだろうけど)
  • p.169:図13.3のキャプションで「ハンディの少ないゴルファーが遊離であることが分かる」(→有利)
  • p.209:「一九九六年のマスターズで6??打差という」(「訳者あとがき」内,あとで確認するために「??」をつけてたんだろうけど)

そしてダメ押しで腹が立ったのが,訳者あとがきの締めの言葉で,

この本はいささか理屈が勝っていて,少し難しく感じられるかもしれない。しかしゴルフの達人を目指す人や,ちょっと知ったかぶりをして友人やゴルフ仲間にスイングの極意を教えてやろうと思う人には必読の書である。また理屈に強くこれからゴルフをやろうとする人にも結構楽しめると思う。

「いささか理屈が勝って」も何も,そういう本なんだもん。この程度の気持ちで訳されたのかと思うと,原書があまりにもかわいそうだ。これを書いたのは,監訳の生駒俊明。株式会社テキサス・インスツルメント筑波研究開発センター,代表取締役社長(当時)で,「大のゴルフファン。理論ハンディはシングル。」らしいんだが,校正能力はハンデ40だろ。

あ,そうだ,あと,本書内で原著者の紹介がひとつもないんだよね。それもひどい。

この本について,ゴルファー的な観点から感想を述べた記事は,こちら。

golf103.hatenablog.com

783.8

ゴルフを科学する (丸善): 1996|書誌詳細|国立国会図書館サーチ