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[論文]Calder, et al. "Cat Model Blending" - 1. Introduction

"Cat Model Blending - Techniques and Governance"
Alan Calder, Andrew Couper, Joseph Lo, Aspen (Respectively, Group Head of Catastrophe Risk Management, Chief Actuary and Chief Risk Officer of Aspen Bermuda, and Head of Actuarial Research & Development.)
13 August, 2012

1.1 The Purpose of the Paper
  • 通常,複数のモデルを使うときには,以下の行動をとると思う.
    1. それぞれのモデルからの結果をとる.
    2. それぞれの結果を比べ,さらに,独自のより定量的なアセスメントと比較し,各モデルの強みと限界を浮き彫りにする.
    3. このアセスメントに基づき,加重平均をとるために各モデルに重みづけをする.
  • このペーパーの目的は,この日々のプラクティスをCatの集積リスクの定量化に対しても適用することである.
  • 上記の3番目は,さまざまな理由により実行されているケースは少ないと思う.そこで,以下の提案をしたい:
    • 開示性(openness)
    • ブレンディングに関する技術的・概念的な議論を深く理解する
    • ガバナンス
1.2 Catastrophe Modelling
  • Catモデリングは(再)保険の世界では1980年代後半から用いられている.
  • Catモデルは通常,引受における以下のふたつの過程で用いられている.
    • プライシング用に,個別のリスクによるロスの期待値と標準偏差,および(再)保険契約からロスが発生する確率の算出.
    • あるひとつのペリル,あるいはすべてのペリルを想定した際の,集積リスクの定量化.通常は,パーセンタイル(あるいはその逆数である再現期間)で表現されるか,確率論的キャピタルモデルに直接データを流し込む.
  • Catモデルに関する詳細は,以下のペーパーを参照のこと:
    • The UK Actuarial Profession organises regular catastrophe modelling seminars – a recent one was held in March 2011, with speakers from major catastrophe modelling companies, as well as from actuarial practitioners. In particular, the present paper will regularly refer to the slides from the talk (Cook, 2011).
    • At least two recent GIRO Working Parties considered natural catastrophes and reported back: one in 2002 (Sanders & others, 2002) and then in 2006 (Fulcher & others, 2006). The 2002 report deals with extreme events in general, with its Section 4 devoted to catastrophe modelling. The 2006 report discusses catastrophe modelling, with a focus on North Atlantic hurricanes.
    • In the US, the Casualty Actuarial Society organises annual Ratemaking and Product Management Seminars. The March 2009 and March 2010 seminars both had catastrophe modelling workshops, the slides of which can be downloaded.
    • (Grossi & Kunreuther, 2005) is a collection of essays that introduces catastrophe modelling, including consideration of how natural hazards are assessed and the topic of uncertainty. Insurance applications also feature in this book.
    • (Woo, Calcualting Catastrophe, 2011) is a thoughtful – and thought-provoking – account of the subject. It considers catastrophes more generally, citing recent financial catastrophes as examples. It can be considered as a second edition to (Woo, The Mathematics of Natural Catastrophes, 1999).
1.3 Types of Uncertainty
  • 不確実性(uncertainty)には2種類ある.
    • Epistemic uncertainty: 知識の不確実性.ハザードに関する情報や知識の欠如に起因する不確実性.
    • Aleatory uncertainty: 偶然による不確実性.地震や風災・水災などの自然災害に本来的に備わっている不確実性.
  • これに加えて「Implementation uncertainty(実施にまつわる不確実性)」というカテゴリーが加えられるかも.完全なモデルであっても,それを作るのは人間であり,人間がかかわる以上ミスはつきものである.あるいは,計算の限界に起因する近似の問題など.
  • Epistemic uncertainty はデータや知識を増やすことで軽減できる.また,Implementation uncertainty も軽減できる.しかし,Aleatory uncertainty は,モデルやモデリングの実行をどうしようとも軽減できない.
  • Catモデリングにおいては,Epistemic uncertainty が非常に大きな割合を占める.
  • このペーパーでは,まったく独立に開発された複数のモデルを用いて,これらのuncertaintyにどう対処するかを検討する.
1.4 The Pricing Process
  • プライシングは,すべての引受のプロセスにおいて重要な位置を占める
  • ある種目に対して,technical priceは機械的に計算され,以下の要素から構成される
    • ロスコスト(the expected cost of all claims that could be suffered by the company)
    • 経費(Loadings to cover internal expenses and external costs)
    • 利潤(profit margin)
  • Catペリルのロスコストは,通常エクスポージャー分析で計算され(exposure rating),Catモデルは基礎として用いられる.必要に応じて経験をもとに計算される(experience rating).
  • Catモデルの使用には困難が付きまとう.入力するエクスポージャーデータの正確性や妥当性は,シミュレーション結果に対して重大な影響を与える.
  • 考慮されるべき点:
    • すべてのペリルがモデルに組み込まれたか? そうじゃないとしたら,どう対処するか?
    • Catモデルに対するビューは?
      • 二次の不確実性(secondary uncertainty)の有無
      • demand surgeの有無
      • fire-followingの有無
    • 不確実性に対する調整をどうするか
    • 社内(あるいはグループ内)に研究開発チームがあり,独自のモデルあるいは独自のビューがある場合,それをプライシングにどう取り込むか?
  • 利潤のサイズは,何らかのかたちで,リスクのサイズに関連しているべき.
1.5 The Accumulation Process
  • Catモデルからは,通常2種類のアウトプットが得られる
    • OEP:ある年の最大のロスの分布.occurrence exceedance probability カーブ.
    • AEP:ある年のロスの合計の分布.aggregate exceedance probability カーブ.
  • これらの数値は,会社全体のポートフォリオに対して見られる場合もあれば,特定の地域・ペリルに対して見られる場合もある.
  • 各ペリルに対して,それがどうモデルされるべきかというビューを,保険会社は持っているだろう.すなわち,ひとつのベンダーモデルを用いるか,複数のモデル結果をブレンドするか.会社にとって重要なペリルに対しては,慎重なモデル評価(model evaluation)を要する.
1.6 Pricing and Accumulation Example: UK and France Windstorms
  • 1990年の Windstorm Dariaと1999年の Windstorm Lothar というふたつのイベントが,ヨーロッパの風災のモデルの開発に拍車をかけた.が,画一した手法がなかったりデータの欠損があたりしたため,同じようなエクスポージャーデータからさまざまな結果が算出された.
  • 最近のふたつのイベントに関して,マーケット全体のロスの違いはモデル間で10%以内におさまるようになってきたが,個々のポートフォリオについては最大で40-45%の差が出るし,その差の方向もまちまちである.
  • Catモデルは脆弱性関数(vulnerability functions)に関して「加重平均」のアサンプションを採用していることに起因する.
  • アクチュアリルモデル(DFAモデル)とCatモデルの組み合わせを用いるのが望ましい場合もある,特に,特殊なエクスポージャーの場合は,高頻度のロスの定量化に対しては.
  • 実際,Catモデルによる小中規模のストームの数値は,過去の経験と合わないケースもある.
1.7 Use of a Single Unadjusted Model
  • ベンダーモデルをひとつだけ(多分,グローバルなカバー範囲が最も大きいモデルをひとつだけ,あるいは,各地域・ペリルに対してそれぞれひとつだけ)用いるのが,もっとも簡単だろう.
  • その際,モデルにまつわる文書化も比較的容易になる.これは,ソルベンシー2の世界では重要.
  • しかし現実には,単一のモデルの使用はシンプルすぎるし,オペレーショナルリスクの要因となる.
  • 単一のモデルを使用することから生まれる「モデルエラー」の問題も視野に入れる必要がある.
1.8 Use of Multiple Models
  • 現実では,個別のリスクをプライシングする際,アンダーライターは起こりうるロスに関してさまざまなビューを持ち,それら結果を比較し,モデル間で大きな違いがある場合にはその理由を求める.
  • Catモデルに関しては,引受に先立ち,あるいは引受を検討する際の材料として,以下の3つを材料にする.
    • 外部のCatモデルは,リスクに関する包括的なビューを提供する.ライセンスのコスト等はかかるが,それと引き換えに,(モデル会社が開示できる範囲内で)リスクの定量化に関する専門家の助けを借りることになる.複数の外部モデルの使用は,同一のリスクに関する異なったビューを得る手助けになる.
    • 当該リスクに関する自社のビューを考慮に入れる.それはモデルブレンディングであったり,時に自社モデルの利用だったりする.モデルブレンディングのアプローチは,各外部モデルに対する独自の評価の抽出(distillation)であると考えられる.内部のCatモデルが利用できる場合は,アンダーライターはモデリングのアサンプションに関してより明確に知ることができる.
    • Experience rating も.その際,Exposure rating の結果と比較される.
  • 外部モデルは往々にしてブラックボックス化されている.
  • 脆弱性関数に関する問題を解決するひとつの手段が,モデルブレンディング.
  • 再現期間の低いところでは経験を用い,高いところで専門家のジャッジメントを用いるということもありうるが,一貫性という点で困難を伴う.
  • モデルブレンディングに伴う現実的な問題としては,さまざまなブレンディング方法からどの方法を採用するか,あるいは加重平均するとしてその重みづけをどう決定するか,という点が挙げられる.
1.9 Comments on the Use of Multiple Models
  • 複数のモデルの使用に関する,格付け機関のコメントを見てみる.
    • S&Pはプレスリリースの中で,自然災害のCatボンドにおけるCatリスクを評価する際には,3大モデル会社のうち少なくとも2つを用いることが好ましいとしている.そのクライテリアの中では単一のモデルの使用も認められているが,「複数のモデルの利用はマーケットにおける透明性を高め,"model shopping" のリスクを提言する」と強く主張している."model shopping" とは,担当者が望ましい結果を出すモデルを意図的に選択することを意味している.
    • A.M. Best は,基本的に単純平均の立場をとり,必要に応じて加重平均をとる.しかしいずれにしろ,どうしてそのような手法をとったか,なぜそれが会社のCatエクスポージャーをもっともよく反映する手法なのかを,説明できることが期待される.
  • 複数のモデルを用いる際,モデル間の結果の違いを検証すると思うが,それによって,外部モデルを理解し評価するめのフレームワークが明確になり,より多くの情報に基づいた意思決定ができるはず.
1.10 Quantitative Feedback Loops
  • Catモデルを使うことは,非常にレアなロスイベントを評価する手段として今考えられる中でベストな方法だとみなされているが,多くの限界も散見される.それらの限界は,データとアサンプションに関連している.
  • 高頻度のイベントについては,データのレゾリューションの問題などがある.これを解消するため,高頻度のところは経験をもとにしたカーブを用い,それをCatモデルのカーブと合成することも考えられる.
Contents
  1. Introduction
  2. Catastrophe Model Blending
  3. A Technical Solution
  4. Governance
  5. Final Words
  6. Works Cited