暗号の数理といえば,なんとなく知っているのは「公開鍵と秘密鍵,素数と素因数分解」という程度なんですが,この本はサブタイトルにある通り「作り方と解読の原理」をちょっと踏み込んで(「P問題とNP問題」「フェルマーの小定理」などを持ち出して)解説していました。
「暗号の数理」には直接関係ないものの,目をひいた記述:
筆者が暗号に興味をもつようになったそもそものきっかけは,太平洋戦争末期に数ヶ月,東京帝国大学の数学科の学生として,参謀本部に動員され,暗号に研究に従事したことにある。
そんな時代があったんですね。
その後,数学研究の道に入ったのだが,スタンフォード大学のヘルマンらが発案した public key cryptography に対する拙訳「公開鍵暗号」が広く現在も使われていることには感無量の思いがある(少々大げさだが)。
そうだったのか!
このニュース(室戸台風)が当時の中央気象台にとどいたのは,実は台風がとっくにすぎ去ってしまった23日(上陸は1934年9月21日)になってからだったという話は,あまり知られていない。
ということで,室戸台風の被害は,当時の情報伝達手段の乏しさも一因であるらしい。
1970年11月に東パキスタン(当時。現バングラデシュ)を襲ったサイクロン(台風)は,中型で並の強さだったが,死者25万人という20世紀最悪の災害になり,バングラデシュ独立のきっかけにもなった。その原因の一つは,いわゆる「狼少年」のパターンである。すなわち10年近く毎年台風警報が出たのにすべて外れたため,今回もまた外れるだろうと高を括って,ごく少数の人しか避難しなかったためである。
ここでもまたコミュニケーションの問題があったとさ。
ちなみに,この改訂新版とオリジナルとの違いは,以下の通り。
現在では,公開鍵暗号などは「常識になり,旧版の記述では時代に合わない部分が多くなった。今回の改訂は,歴史的な話題を残し,現代にふさわしい内容を心がけたものである。
(中略)
第4章の前半までは,旧版の部分修正である。特に大きく変更した部分に一言しておく。削除(一部要約)したのは旧版第1章末にあった,二度の大戦の裏話に関する二項目である。この話は,暗号の解説自体よりも,それで得た情報の活用が主題だからである。追加したのは第2章の中頃で,トリストの暗号とビールの暗号のに項目を加えた。前者は19世紀に広く使われた「本を鍵とする」暗号の具体例であり,その本が判明した稀有な実例である。後者は偽物と判定された例である。実のところ謎の暗号なのか,それとも巧妙な偽物なのかと,議論の種になっている古文書が現在も多数ある。そのささやかな一例として紹介した。
第4章の後半以降から第5章は,旧版の一部を生かしたものの,構成・内容とも全面的に見直した新規の書き下ろしである。数学的な内容は最小限にしたが,数式を全く使わないわけにはいかなかった。そのイメージだけでも理解していただくことができれば十分である。
最後に「第6章 量子暗号」を書き下ろしで加えた。もとよりこれは近年球速んい発展しつつある広義の量子情報技術の一部である。本来ならばそれだけで一冊の書物が必要な話題であり,とても本書の末尾の一章だけで扱うことのできる話題ではない。しかしもはや暗号技術を論じる上で,避けて通ることができない題材なので,すでに技術的に確立されている部分について,雰囲気を伝える気持ちで執筆した。
809.7