Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

フランク・H・ナイト『リスク、不確実性、利潤』筑摩書房

読みにくい。ナイト本人が本書を「従来の経済的教義の根本原理をより正確に提示し,その含意をより明確に示そうとする試みを表した」と言っているわりには,訳者には「ナイトの議論は入り組んでいて,必ずしも論旨を追うのが簡単ではない」と言われている。角括弧でかこわれた訳者による補足がやたらと多いことも,ナイトの文章の分かりにくさを象徴している。

保険の文脈で本書の「リスクと不確実性との違いの定義」――〈リスク〉は定量化可能で〈不確実性〉は不可能――が引用されることが多いが,そもそも本書でナイトが保険に直接言及しているのはごく一部。その言及も表層的で,さらに翻訳の問題もある:

もし[保険率の]評価が手堅いものであれば,非常にユニークな偶発事故に保険をかける際の[保険会社の]プレミアムが損失をカバーするし(p.330)

「プレミアム」って保険料のこと? 「ユニーク」ってカタカナにしちゃうと「ファニー」っていうニュアンスが日本語では出てしまうけど,文脈から判断するに,これは――よくある火災事故とちがって――他に同質な事象が存在しない唯一性の高い事故ってことだよね?

331.85

リスク、不確実性、利潤 (筑摩書房): 2021|書誌詳細|国立国会図書館サーチ